「部屋に引っ張り込んだのは君だからな」京極が反撃してきた。向井はギョッとなった。なんて立ち直りの速い男なのだ。

 「オレも共犯だってんですか?」

 「その通りよ。レッキとした共同正犯ってやつだな」

 いわれてみれば、まさしくその通りだった。向井が女を部屋に連れ込んだから、京極が殴ることができたのだ。行為としては同一線上のモノととみなされる。だから、向井も逃げたのだった。

 「わかりましたよ」向井はフーッと息を吐いた。だけどなぜ、女を殴ったりしたんです?殴らなくても、アイツら覚悟を決めてた。マイクをアソコに突っ込むことだって合意でできたんだ。ちゃんと説明して下さいよ。でないとぼくは納得できない。たとえ、あの行為を見られてもぼくは痛くも痒くもなかった。どうせ、見ず知らずの女ですからね」

 「女が憎かったんだ。ぼくは今日、嫌というほど女に痛めつけられてた。だから、君が部屋に連れ込んだ時、カーッとなって自分を抑えきれなかったんだ。また、女が邪魔をすると思った。無我夢中でたたいてしまった」

 「いったい今日、何があったというんです?」

 向井にそう聞かれると、京極はガックリと肩を落とした。そして、ボソリといった。

 「君にも関係していることだぞ」

 向井は再びギョッとした。矛先が自分に向かってくるとは考えなかったからだ。彼は眉を顰め京極を睨んだ。だが、京極は平然と先を続けた。

 「浮気がバレたんだ。学生時代に付き合っていた女と浮気をした。それが美也子にバレた」

 「だから、美也子さんが角をだしたってわけですか?」

 「それならまだイイ。君の婚約者がしゃしゃり出てきた。美也子を隠して会わせてくれない」

 「加代が?」さすがに向井もあわてた。まさか、自分の婚約者の名前が出てくるとは思わなかったからだ。

 「そうとも、ひどいことをいわれた。なぜか、あの女はぼくを憎んでいる」

 向井は加代の顔を思い浮かべながら、京極のいったことを事実だろうと解釈した。根本加代は極端なことをいえば、性同一性障害者である。平たくいえば、男になりたがっている女と思えばいい。男の気持ちで連城美也子を愛し、恋敵として京極に嫉妬し憎んでもいる。向井と付き合っているのも、向井の女の部分が好きだからだ。性行為の時、男になりすませる。男性具のついた皮バンドを腰に巻いて、向井の肛門を思いっきり犯すことができる。同棲や婚約も彼女の方から迫ったことだった。

 「これから、どうするんです?」向井は話題を変えた。

 根本加代の勁烈な性格はよく把握している。それが、恋敵の京極に向けられたモノであれば、その程度は手を取るように想像できる。京極が女と見るや殴りつけたい衝動に駆られたとしても、仕方のないことのように思われた。少し同情も湧いた。なんにしろ、こうなってはふたりでよく相談して、この難局を乗りきるしかない。

 「そうだな。方法は三つある」

 京極は空にした缶を放った。それは派手な音を出して正面の壁に跳ね返り、ふたりの足元に転がってきた。京極はそれを靴のかかとで踏み潰してからいった。

 「ひとつ、このままフケる。ひとつ、自首する。あとひとつは、しらばっくれる。この三つだな」

 「・・・」向井はしばらく黙っていたが、持っていた空き缶をメリメリとふたつに裂いた。とうとう、犯罪者になってしまったという思いがある。これまでも、犯罪すれすれのことをずいぶんやってきたが、なんとか切り抜けてきた。だが、今度のことはどう考えても救いがない。同僚とのホモ行為を見られた腹いせに、無抵抗の女を殴りつけたとあっては何をかいわんやである。

 

                            続く

 

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