京極はすでに事件への興味をなくいしていた。あれほど強かったミカエル・トウリへの憧憬も消えかかっている。深刻な問題が自分自身の身に降りかかってきたからだ。美也子から絶縁宣言された。憎い根本加代の口を通してだ。これほど重大なことが起こったのに、他人事を追うほど人間はできていない。木谷利男のもとを訪れたのも、情熱などでなくタダの慣性だったに違いない。

 それにしても、根本加代は憎い。情け容赦のない絶縁宣言も、根本加代が煽って美也子にそうさせたと京極は疑っている。そうでなくては仮にも、2年以上もつきあい婚約までした相手を悪腫でも切って捨てるようにすてるとは理解しがたい。現場写真があるから浮気したことは言い逃れできないが、話し合いもできないほど致命的なことをしたとは思えない。世間一般、ありがちなことではないか?それを理解できないほど美也子は頭の固い保守的な女ではない。要は、根本加代が引っかき回している感じだ。美也子を洗脳し、自分の思うとおりにことを運ぼうとしている。

 ”根本加代が憎い”京極は歯がみしながら向井を睨んだ。

 ”根本加代は一番大切なモノを私から奪おうとしている。だったら、コッチも一番大切なモノを彼女から奪ってやる。”

 京極はたとえ強姦してでも向井を自分のモノにするつもりだった。だから、このカラオケボックスに引きずりこんだ。根本加代への復讐心が火と燃えていた。彼は黙ってジッパーをおろし生温かいモノを引っぱり出した。何のことはない、ここまでは何度となくやってきた行為だった。今のように、薄暗い部屋で向井と二人っきりでだ。

 「サア、思いっきりくわえてみな」

 京極はこれまでいわなかったことを優しくゆっくりといった。冷たく残酷な響きでもあった。向井はビックとし離れようとしたが、京極はその肩をガッシリ押えた。

 「サア、やってみな」

 京極はスッカリズボンを下げ、股を開いて体を後ろに倒した。向井はしばらく震えていたが、意を決したように床にひざまずき京極の股間に顔を突っ込んだ。悦びや悲しみが、咥えた一物が口の中で膨らむように、彼の胸で膨らんでは弾けた。向井は穴のあいた管のように泣いていた。涙と一緒に何でもかんでも吸いつけた。もう夢中であった。

 京極に正体を見破られてから、こうした日がいつかは来ると覚悟していたが、実際にこういにおよんでみて、想像してたよりは自分をおとしめる惨めさは湧いてこない。それより、自分が解き放たれたという意識が強い。逆に、京極に感謝したい気持ちだった。

 ” それにしても、この止めどなく流れだす涙はなんだろう?”

 向井は、体の中身がなくなってしまうほど流れ続ける涙が不安だった。もしかしたら、自分が内部的に別のモノに変化するのかもしれないと怯えた。これまで、自分を守ってくれたサングラスはとうとうむしり取られた。口の中が一物と唾液と涙でいっぱいになっている。生まれて初めてやる行為だが、驚くほどスムーズにいっている。これからは別の意味でサングラスをかけなければならないかもしれない。

 京極が呻き声を立て始めた。耐えられないというふうに身をよじっている。そうなったところで、向井は特別あわてなかった。それどころか、どうすればもっと自分のやりたいことを遂行できるか冷静に頭を巡らせていた。具体的にいえば、京極の睾丸を舐め、次には尻穴を舐めることである。

 

                         続く