「ソリャー、そうだろう。あんたたちは5人もいたんだし、本当におっぱじまれば何人か殺すことになったかもしれない。そうなれば、いくら自分が刑事だからってタダじゃすまなくなる。その意味でいったんだよ」

 「・・・」茂は言葉をのんでいる。「マジでそれほどの奴なんですか?なんか嫉妬を感じるな」元気がない。

 「気にすることはない」辺見は微笑んでいる。「それで奴が幸せかどうかは別問題だからな。だけど、そんなのが訪ねてきたってことは多いに気にしなくっちゃいけない。さあ、くわしく話してみてくれ」

 「彼は募集人員をよそおって入りこんできた。しばらくして、オレは彼の正体に気づいた。だから、アンタに知らせる前にオジキに知らせとこうと思ったんだ。オジキと彼がどんな話をしたのかオレはしらない。ただ、オジキの書いた手紙のことでなんかあったんだと思う」

 「手紙?」辺見は怪訝そうに聞き返した。

 「オジキは好きな女ができて、そいつにセッセと手紙を書き送ってるんですね、、、」

 茂はそう切り出したが、辺見には意味がピンとこなかった。「・・・」口を挟まないで聞くしかない。

 「だから、オジキはきっと京極に書いてた手紙を見せたんじゃないかな?オジキは自分の書いた手紙がいいできのものとは決して思ってなかったから、常に人に教わりたがってた。そこに京極が現われた。彼は教養がありそうだし、もってこいだとおもったんでしょう。それほど、オジキは手紙を大切にしてたし努力もしてた。笑っちゃうほど真剣に、毎日毎日、書いてましたからねえ。オレもウンザリするほど読まされましたよ。確かに酷いありさまでね。読めば読むほど、書いた人間を嫌いになるという風な内容でしたよ。きっと知子だって、、、。アア、手紙を書き送っている女は知子というんですよ。三十過ぎのコブつき女でね。金さえ貰えばエテ公とだってマンXする淫売なんです。もちろん、アフリカ人やインド人だって大歓迎ってわけです。そんな女だって読むなり破り捨てるでしょうね、、、」

 辺見の精神は虚ろにさまよっていた。その先には絶望が大きな口を開けている、、、。彼は組織の中では木谷茂を最も頼りにしていた。茂は若いだけでなく、精神力もたくましいと思っていた。その彼にしてこうである、、、。蚤ほどの脳みそも持ち合わせちゃいない、、、。

 とうとう絶望へのみこまれた。

 考えてみれば、ヘマをやりそうな連中ばかりである。何かの拍子に、抜き差しならない証拠を握られてしまったのだろう。もうすでに、外堀は埋められてしまっているのかもしれない。

 辺見は目を見開いて周りを見回した。恐ろしい力を持った強大な敵がすぐ近くに迫っていると感じたからだ。冷たい汗が背中を流れていた。片手で自分の首に触れてみる。まるで、ゴムのようにブヨブヨして柔らかい。ここに、ザラザラした荒めのロープが巻かれるのを想像する。穴に向かって突き落とされた。吊されると首はろくろ首のように伸びるそうだ。ちぎれてしまった実例もあるらしい、、、。

 ”オレは目方があるからそうなるかもしれない”

 辺見の脳裏に己が首がロープの先でブラブラ揺れているさまがパッと浮かんでは消えた。

 

                          続く