「部屋から出ていった?どこへいったんだ?」辺見はいぶかしげである。

 「そのまま帰ったんです。自分の車に乗って病院から去っていった」城崎は普通に答えた。

 「なんだと?アンタラのフェラチオを見学した後でそのまま去っただとう?そんなことあるかい。アンタが忘れてるだけだ。奴はその他にもなんか意味のあることをいったはずだ。チョコッとなんかいったあとで、いきなりフェラチオかい?しかも、それを見た後で黙って去っただと?そんなこと信じられるもんか。さあ、思い出してくれよ」

 「、、、アッ、思い出しました。わたしは緊張のあまり舐められても立たなかったんだ。すると、彼がやったこともないたまげたことを想像すると立ってくるといったんだった」

 「・・・」辺見は言葉を失った。情けなくて怒りも湧かなかった。しばらくして、やっと低く呻いた。

 「もっと他にあるはずだ。思い出してくれ」

 「・・・」

 今度は、城崎が黙りこむ番だった。かなり長いこと沈黙が流れたが、彼はとうとう口を開いた。

 「思い出しました。一番、重要なことを思い出した」別人の声のように明るい声だった。

 「彼はサヨが、わたしのことを海よりも深く愛しているといったんだ。わたしを守るためだったら、県民全部だって殺すだろうとそういいました。聞いたその時は心を揺さぶられたのに、なんで今の今まで思い出せなかったんだろう?」

 「よかったな、思い出せて」辺見はいった。「それで全部なんだな?」少し笑っている。

 「そうです。本当にこれで全部です」

 「なあ、先生。全部、吐き出しちまってスッキリしたかい?」

 「ありがとう。まるで、熱い湯からあがった時みたいです」

 「ヨシ、じゃ、しっかりするんだ。お互い分別のあるいい大人なんだ。どこかのジャリみたいにバタバタ騒ぐのはやめにしようや。といってもオレだって、向井がアンタの病院を訪ねたってことは軽く見てはしない。重要なことだと受け止めてるよ。お互いいきなり頭を吹き飛ばされても、文句のいえないようなことしているわけだしな。けど、アタフタすんなって。向井があんたを訪ねた。ソリャー、重大だ。だけど、今のところはそれだけだろ。奴はのぴっきならない話をしたわけでもない。あんたがたのフェラチオを見て帰ってった。これじゃ、目的がなにかもわからん。日にちをくれよ。オレが全てをさぐりだしてやるからよ。それからにしようや。あわてるのはよ。今は、落ち着いてて欲しいんだ」

 「わかりました。サヨと一緒にここにいますよ」城崎の声は穏やかになった。

 「ああ、そうしてくれ。それと、先生よ。もうひとつだけいっとくぞ。やって来たことは決して消えない。理由なんか関係ないんだ。覚悟を決めてしまうんだよ。そうすれば、うんと楽になる。じゃ明日、連絡するから」

 辺見は電話を切った。するとたまげた。煥発をいれず、また鳴ったのだ。彼は反射的に受話器をすくい上げた。

 「ずいぶん長いこと話してましたね?」木谷茂の声だった。

 

                          続く

 

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