次の日の午後、辺見直介は荷物を運んできた。といっても、来た時は自らの両の足で歩いていたレッキとした人間で、どこにでもいそうな少女だった。ところが、帰るときには梱包されて本物の荷物にされていた。

 緊急だったから、辺見は悪い病気にかかったかもしれないと騙して少女を連れてきたという。

 「病気はなかったけど、妊娠してたわよ」笛木サヨがいった。

 彼女の悪癖はこの時から始まったといっていい。彼女は男からも女からも、必ず自らの手で性器を切りとる。そして、気に入ったモノがあればホルマリン漬けにして保管する。今のところ、生殖器は一銭にもならない。毛むくじゃらでヒダのある肉片は、サヨと辺見にかわるがわるいじくられてバケツの中に捨てられた。もちろん、金に換える重要な臓器は摘出後、すぐさま冷却器に入れられる。

 木谷利男が処置室に入ってきた。灰燼の中をくぐってきたような白髪頭の小男で、タクアンのような黄色い皮膚をしている。続いて、その甥っ子である木谷茂も入ってきた。いつも泣き出しそうな悲しげな目つきをした朴訥な青年である。ふたりは押し黙ったまま冷却器を運び出していった。

 その入れ替わりに、もうひとりの男が姿を現わした。長い間の戸外での筋肉労働を思わせる赤銅色のガッシリとした体躯。高橋陽一は手術台の残骸をチラリと見ていった。

 「ナオさん。いい工場をメッケたじゃネエか。一目見て気に入ったね。なんしろ、こんなとこに病院があるなんて、このおれでさえ知らなかったくらいだからな」

 彼はまず、手術台の上の少女の頭を持ってきたダンボール箱に投げ込んだ。

 「まだ、血が抜けきってないかもしれないわよ」それを見ていた笛木サヨが注意した。

 「ナーニ、すぐ埋めちまうから心配いらないよ。サヨちゃん」

 高橋陽一は薪でも放るように、次々と少女の手足をダンボール箱に投げ込んでいく。なるほどそれは、液体がしみ出さないようなぶ厚く頑丈なものである。

 「人間てのは無駄が多いよな。おれはこうやって見ているといつもそう思うんだ。金になる部分がもう少し増えてくれたらなとね。バラす手間はおんなじなんだからよ」

 辺見直介は手術台に寄って、その縁にこびりついた少女の内臓の一片を、まるで塩辛でも摘まむように口にしながらいった。

 「豚なんかよりは、はるかにうまいと思うんだがな」クチャクチャ噛みゴクリと飲み込む。

 「需要と供給の問題だよ。ナオさん。アンタだけがそう思ってもどうにもならねえ」

 高橋陽一は素早くダンボール箱に麻紐をかけ終わると、それをひっかづいて部屋を出て行った。

 「土方がなに、わけのわかんねえこといってやがる」辺見はバタンとドアの閉まる音がすると同時に毒づいた。

 

                         続く