小池太郎はそれを確認するとすぐにいった。

 「ウン、それじゃ、娘にようかい?だったら今、2階にいるが、、、」

 今までにもこうしたことが度々あった。不純異性交遊、傷害、売春、窃盗、暴行、薬物乱用、、、。美雪がそのうち拘束されて、どこかの施設に収容されることは覚悟していた。

 「いや、娘さんに用事などないんですよ」中年の刑事はジロジロと周囲を見回している。

 「じゃ、おれに用事かい?なんだろうな?」妻の貞江は5年前に子宮ガンで死に、長男の努は2年前、恐喝で逮捕されている。今の小池家には太郎と美雪のふたりしかいない。

 「大げさに考えないで下さい。ちょとした聞き込みで寄っただけですから」中年が作り笑いを浮かべた。後ろの若い方も同じようにしている。掛け値なしの間抜けずらだった。下田は何とか痛みを緩和しようと頭を揉み続けていた。そこへ、中年の刑事が声をかけた。「あんたは?」

 「こいつは、おれのダチで下田ってもんだよ」小池太郎が代わりに答えた。

 「しもでん?どんな字を書くんです?」

 「上下の下に、田んぼの田だよ」小池がまた答えた。

 「下のほうは?」と中年刑事。

 「英孝です。ひでは英雄の英、たかは孝行息子の孝」今度は下田が顔をあげて答えた。

 それを聞くと中年の刑事は後ろの相棒に合図をした。間抜けずらの若い刑事は、持ってきた鞄から厚い書類を出し、しきりに繰っていたが、しばらくして首を大きく横に振った。

 「ここで商売を始めて何年になるんです?小池さん」中年がいった。

 「そんなこと、とっくに知ってんだろう?おまわりさん」小池はそういってビールを煽った。下田はまた頭をもみ始めた。中年はしばらく瞑目していた。そして、いった。また、作り笑いを浮かべてだった。

 「ちょいと、そこら辺をみてまわってもいいですかね?」

 「そりゃいいが、裏の廃車置場をみるときにや気をつけて下さいよ。下はぬかるんでるし、上から何が降ってくるかわかりませんからね」小池太郎が無愛想にいう。

 「じゃ、とりあえず、2階から見せて貰おうかな」と中年。

 「目を潰さないで下さいよ。ウチの娘は盛りのついた雌犬なんでね」

 「だいじょうぶ。汚いものは見慣れてますから」ふたりの刑事は音もなく階段を昇っていき、あっという間に降りてきて勝手口から外へ出ていった。時間にして5分とたってない。

 「なんだろうね?あいつら、いったいなにしにきたんだ?」小池が呆れたように、出ていった方を見やっていった。

 「これが聞き込み捜査という奴サ。大抵は、たいしたことも聞かなくておん出ていく」

 下田英孝が答えた。どういうわけか、頭痛が和らいでいた。視界も水から上がったようにすっきりしている。アルコールがいいように作用したのかもしれない。

 「どうしてよ?せっかくはるばる来て、あんなモンで帰っちまうのかい?少し熱意が足りないんじゃないかい?」

 「ま、そういうな。いずれにしても、真実ってのはひとつだし、奴らにしてみれば他のものにかまけている時間などないんだろう」下田はそういって、またビールを催促した。

 

                         続く