容疑者は地域住民で年齢30歳以上、比較的裕福か、他人にうらやましがられるほど裕福かのどちらかであるが、家族はまったくいないか、いても物の分別がつかない幼児か、力の弱った老人がいるくらいである。

 要するに、かれは絶対的な家長で、彼を戒める家族は存在しないということである。

 彼は一戸建ての家に住んでいて、かなり広い土地も有している。彼は現在、あるいは過去からズッと妻帯していないことから、変人と見なされているが、気の合う友人はわずかにいて、彼らとばかり交際している。あるいは何かのサークルか集団に属しているかもしれない。彼は今も農民であるか、先祖が農民だった可能性がかなり強い。だから、出生地あるいは本籍地が現住所とおよそ合致している。

 冷静に考えてみれば、このようなプロファイルにあてはまる容疑者が、限られた地域の中でたまげるほど大勢いるわけはない。それでも30人はいる。京極は悩んだ。地域をせばめるか、年齢を狭めるかしなければ、その数を減らすのは難しい。悩んだあげく、年齢のほうを選んだ。40歳以上に切り上げたのだった。

 地域をこれ以上制限することは、危険と思えた。なんといっても、車社会である。今度の犯行でも、車を使った可能性は揺るぎもない。ミカエル・トウリが姿をくらませたとき、46歳だったのも、かなり影響した。それにしても、危険な行為であることには違いない。

 子供を誘拐した犯人が、39歳12ヶ月でも40歳1ヶ月でも、そのことに何の意味があろうか?意味もないことで、容疑者を枠の外にするりと逃がしてしまうかもしれない。でも、それがプロファイリングというものだろう。そして、今は究極のプロファイリングが求められてるときなのだ。

 ”だから、ぼくが呼ばれた。爪を引っかけさせてくれ”

 京極がキーをたたくと、40歳未満のファイルは消滅した。10人が残った。そこから、試行錯誤を繰り返して5人を選び出した。

 

 ○城崎丈也 43歳。本籍地香川県。職業、医師。平成15年、郡南部、柳田町にて開業。令和元年、淫行条例違反により罰金刑を受ける。独身、婚歴なし。

 ○木谷利男 45歳。同市生まれ。産廃業者。平成13年、道路交通法違反。平成14年、傷害罪、同年11月、軽窃盗。いずれも不起訴。平成16年より20年まで市会議員。複数の離婚歴、現在も係争中。

 ○下田英孝 46歳。同市生まれ。アパート経営者。平成8年、動物愛護条例違反。平成15年、軽窃盗。平成19年、器物損壊罪。平成30年、児童福祉法違反にて略式起訴。婚歴なし。

 ○高橋陽一 48歳。神奈川県生まれ。平成12年、同市間宮町にて(有)高橋造園創業。平成15年、傷害罪。16年、恐喝罪。平成20年、道交法違反及び傷害致死罪。妻子あり。

 ○杉原 猛 44歳。同市生まれ。農業。平成15年、銃刀法違反にて起訴猶予。平成19年、淫行条例違反。令和元年と4年に公職選挙法違反。2度の離婚歴。現在独身。猟友会会員。

 

                         続く