義行宅に帰ると涼がまたいた。元々、ここに住んでいたのだからいても不思議はないのであるが、義行さんが帰ってきたことでいやすくなったのであろう。それに、義行さんに何かあれば送迎車を転がしていく立場でもある。

 台所で義行、シンコ、則子、洋子、静子と一緒にワイワイやっている。台所のガラス戸をガラッと開けた途端、私はこの家にまた活気が戻ってきたと思った。

 「遅かったじゃない。どこいってたのよ?」と則子。

 「パチンコだよ。ナア、涼」と私は涼を見て答えた。

 「そうですね。パチンコ屋で別れましたね」と涼が返事をする。

 「私、今日帰るから、だから涼君に来て貰ったのよ。アナタが送ってくれることなんかないでしょうから」と則子が言う。

 「え、嘘だろう。定例会までいりゃいいじゃねえか?」

 私はとっさのことでビックリした。来てから一回しか交合していない。それが不満だった。今日、明日あたりのはと思ってはいた。ヤッパリ、今一番愛してるのは則子だった。後は全員が百姓系である。教養にケタ違いの差があった。女性の美しさは見た目だけではない。よくいわれることであるが、内側から輝くものがその美しさを際立たせる。美女コンテストで入賞したものでも、ああしたものはただ綺麗なだけの花瓶のようなものである。魂が備わっていない。

 則子は飛び抜けた教養を持っている。各種の専門知識もある。そういう人が糞をひり出すからゾクッとくるのである。ブタが糞をしても当たり前のことである。常日頃から私は全てを投げ出し全財産を持って、則子と遠くに行って暮らしたいと考えている。

 則子が承知するならそうするつもりだ。だが、則子がそんなことするわけはないと確信している。そこまで私を愛してはいないということである。しかし、奇跡的にはい、そうですかと言うことになって、手に手を取って駆け落ちということになると、そうした展開もゾッとしないのだった。なぜなら、則子と長続きさせる自信がまるでないからだった。というわけで、なにをやっても私の心は寂しく渇いていて満たされることがない。私の側にいる人間、関わりを持った人間こそ迷惑であるがしかたがない。私は満たされない心を何かで紛らわそうとして、突拍子もないことをやり出すことになっている。気狂いピエロって知ってるかい?

 「本社も今、ゴタゴタしててね。なにかと大変らしいのよ。今日も時枝さんに電話でこぼされたの。帰ってやらなくちゃ」

 と則子が言う。

 そういえば、三井の件はどうなったのだろうか?末野とまだ揉めているとすれば大道は大変である。

 「涼、三井どうしてる?」と私は涼に問いかけた。

 「どうって?夕方会ったときは事務所で、啓太さんなんかと麻雀してましたよ。それから、則子さんに呼び出されてコッチ来たんで後はわかりません」と涼はコーヒーを飲みながら言った。インスタントに決まっているが、静子に入れて貰ったものだろう。

 「三井さん、なんかあったんけ?会長」シンコを横に侍らせて義行が問うた。

 「イヤーなんにも。全然、顔見せないからどうしてるのかと思ってさ」と私は言った。

 XX町の児童公園でつい最近面談したのはみんなには内緒である。もちろん、最高会議は秘密裏に行う。

 「ホントよねー、義行さんに祝い事があったのに、一切寄りつかないってのはどういうことよ?少し、おかしいんと違う?」

 と則子はおかんむりである。

 「知らねえんじゃねえの?」と私は三井をかばった。「涼、何か言ったか、三井に?」

 「いやあ、オラア特になにも」と涼はにが笑いしている。

 グループを抜けて大道商事に入ったことで、今でも三井が煙たい。

 

                           続く