銀行で通報されれば一発で終わりだが、加世子の様子をうかがっているとそんなことはしそうもなかった。といっても、私にも捕まる恐怖は腹の底に漫然とあった。だが、渡世人としての覚悟も決めていた。その時はその時だ。ジタバタはしない。そうでなくては何にも成し遂げられない。涼も腹だけは括っているはずだ。

 銀行の駐車場で長い間待っていたが、職員も警官も出てこなかった。来たのはハンドバックひとつ下げた加世子だった。ハイエースの後部席に乗り込んでくる。

 「ゴメンナサイ、混んでるのよ。心配したあ?」

 明るい声で言う。その頬にはハッキリと私に殴られた痕が着いていた。

 「余計なこと言わないで、とっとと金出せ」私は怒鳴った。

 加世子はハンドバッグから封筒を出した。仲には帯封がふたつ入っている。私はそれをジャケットの内ポケットに無理矢理押込んだ。

 「降りろ」といって私も一緒に降りた。そして「今日はこれで終わりだ。ご苦労さん」と言った。

 「あら、家まで乗せてってくれないの?」と加世子が驚いている。

 「タクシーで帰りナ。だから、ハンドバッグの金は手エつけなかったんだ」

 私は助手席に乗り込んでバタンとドアを閉めた。涼はすぐに発車した。少しして私は用意してあった封筒を脇ポケットから出して涼に渡した。中には20万が入っている。たった今、女からいくらせしめたかは涼にはわかってはいない。

 「涼、来る途中に郵便局あったろ?そこに着けてくれ」私は言った。

 涼は貰った金をポケットに突っ込んで悠然と運転している。分け前のことで御託をいうのはもう止めてくれたようだ。大道の名前のおかげで自分はデカいツラができるとようやく理解したみたいである。

 「専務、この頃いい調子ですね」と笑顔で私に問いかける。

 「なんだかな?だいぶ流れに乗ってきた」と私はいい郵便局の赤いマークが見えたので「アッ、あそこだ」と怒鳴った。

 涼は素早く反応して、ポストの脇から歩道に乗り上げて裏の駐車場にハイエースを滑り込ませた。

 「ちょっと待っててくれ」そういって私は車を降り郵便局に入っていく。窓口にいってレターパックを注文し園池加世子の宛名を書いて、中に数枚のエロ写真を投入し封をすると窓口の係員に受け付けを頼んだ。こうしておけば、園池加世子は震え上がるだろう。なにしろ、私は町内会の名簿を持ってきている。やろうと思えばその一軒一軒にレターパックを送りつけることができる。トーシローに舐められた時点で渡世人の幕は降りる。そうならないためにも、常に脅し続けていかねばならない。

 時間の経過というものは事柄に対してとても重要で、長くなれば長くなるほど、恐喝か馴れ合いかの線引きが曖昧になってくるモノである。だから、私も極端に追い詰めることはせず、教科書通り長くしゃぶることをモットーにしている。

 

                          続く