義行宅に着くとみんながワーの声援で迎えてくれた。ご馳走も作ってくれている。酒類もたくさん用意されている。どこで嗅ぎつけたのか涼と遠藤君も来ていた。ふたりはメグミを巡っての恋敵である。結果的には涼がメグミを遠藤君に譲ったと言うより、メグミが遠藤君を選んだという格好である。「結婚してくれ」この言葉にメグミが首を縦に振ったのである。

 この二人には辛い時期がかなり続いた。メグミが寄ってたかってみんなに回され、遠藤君も使い走りとして散々辛い思いをさせられた。お互いが傷をなめ合うようにして仲良くなったのだ。彼女が遠藤君の人柄に惚れたということであろう。涼自身も突き詰めれば遠藤君が好きであるから手を引くよりなかった。バシタ盗るなの鉄の掟は涼の中にも生きているから。

 遠藤君は少し見ない間に顔つきが変わった。厳しくなったというべきだろうか、仲間うちで使い走りをしていたころは特徴のないのほほんという印象だったが、今はキリッとしていてつけ込む隙がないというような感じである。末野は一人前になるのは10年かかるといっていたが、どうしてどうして、あと何年かすれば、末野の屋台骨を背負って立つ強者になりそうである。

 「義行オジさんには送迎の時、いつもお世話になって頭が上がらんですよ。本当によく面倒ば見て貰ってます」

 遠藤は義行の後ろでその肩を揉みながら言う。

 「よかったない、オジさん。連れができて。ひとりでおるよりふたりのほうがいいにきまっちょるケン」

 遠藤は実に嬉しそうである。時には、雨でドロドロになった山道を義行とふたりで送迎車を転がしていく。並の苦労ではなかったかもしれない。

 「オジさんは本当にいい人だ。こんなオレに親切にしてくれてナー、オレはオジさんをどうかするよな奴は絶対にゆるさんからな」と涼が吠えた。金や食い物がなくなると無心していたらしい。どういうわけか、義行は涼を自分の息子のようにかわいがっている。大体からして、一面識もなかった私に、タダ同然で一軒家をポンと貸してくれるなぞ、ナントカ小説のたぐいにもでてこない。義行さんは人がよすぎる。

 私は深く感謝している。義行の人徳であろう。宴は義行とシンコの祝言の様相を呈していた。純然たる養子事とは誰一人思っていない。他のモノがシンコのような若い娘を射止めると、嫉妬ややっかみが出てくるが、義行さんにはソレがない。女性陣も心の底から祝っている様子である。殊に実妹である洋子は泣かんばかりに喜んでいた。幼児の頃、義行さんの背中におぶされて、しょっちゅう山に登っていたと言っていた。義行はメジロを捕るのがうまかったそうだ。彼はことのほか洋子をかわいがっていた。

 私は決死の覚悟で佐藤組の事務所に、洋子奪還のため義行さんとカンさんとで乗り込んだ時のことを脳裏に浮かべていた。首尾よく洋子をその胸に抱き取ったとき、義行は大声を出そうとする洋子に何も言うなと怒鳴った。私はジーンときたものだ。

 「大道会長、ありがとうナイ」ふと我に返ると、義行がシンコを横に置いて、私の手を握ったところだった。

 私はなにか言葉を継ごうと思ったが、喉が詰まって言えなかった。義行の目に涙があふれ出したからだ。いつしか私ももらい泣きしてしまった。

 

                         続く