「会長、前回の分です」柳はそういって、思い出したように懐から紙袋を出して私に差し出した。金が入っているのは間違いない。こうやって、会うたびに2万だ、3万だとくれるのだ。その基準はどうなっているのかわからないから、深くは追及しない。周造の方にも流れていて額は私より多いと思う。マア、小遣い稼ぎだと私は判断している。最もコチラも宮城が加工したDVDをしょっちゅう持ってきたり郵送したりしている。案外ソレで結構な利益を上げてんじゃないかと思うときもある。

 「いやあ、山で撮ったヤツは出ますねえ。あまり出るんで、恐くなって制限してるんですよ。すでに相当な数コピーされてるでしょうからね。あまり評判になっても案配が悪い」柳が言う。

 「あれは凄い。あの首吊りを演出だと思うモノは一人もいないでしょうね。宮城があれ程の技術を持っているとは思わなかった。石川以外は全員、顔にボカシが入れてある。製造元を特定するのは絶対に不可能でしょうね」と私が言う。

 「野犬のシーンは鳥肌が立った。ただ、構成力だけでアレだけの迫力が出せるんですから並じゃないですよ。セピア映像に欲しいくらいです」と柳が笑った。

 「とにかく本人は変わってますからね。普通人とは違いますから。芸術家に近いんでしょうね」と私。

 「ハハッ、そうですか。ソリャー楽しみだ」と柳は笑ってから、一瞬、間を置いて言った。「時に話とは、シンコのことなんですよ。もう一体、お買い上げできないかと思いましてね。実際、あの通りもう一人前の仕事はできるんですが、何しろまだ未成年なモノでね、映像にできないんですよ。無理にやれば村西とおるになってしまいますからね。実際合切、18がよくて17がダメだとかって誰が決めたんですかね?バッカじゃないかと私は常日頃から思ってますよ。児福なんてくだらない法律こさえて、世の中をダメにしてるのがわからないんですかね?人間を年齢で差別するとは悪魔の所業ですよ。731より酷い。人権を取り上げるということですからね。人間は人間、どんなアレでも平等であるべきです」と柳は力説した。

 私はわかったようなわからないような気持ちであったが、シンコがなぜ、テツとヨネ相手にあんなに派手にサンドイッチをきめてたかは理解できた。それでなくても、金を懐にしまうところだったので、首を大きく縦に振って賛同した。

 「マジですねえ。世の中には馬鹿げた法律が多すぎる。人間そのものをないがしろにしているんですから」

 「その通りですよ。私は許しませんよ。抗い続けてやる。この命が尽きるまで」と柳はキッパリ言った。「だからというわけではありませんが、シンコも100万でお買い上げいただきたいんです。何にもしなくったって、脇でちょっと写るだけでもご法度なんですからねえ。どうにもなりません」

 「ハアなるほど、そうなってくると買う方も厄介は厄介ですよね?」と私は首を捻った。

 「だから、正規の人身売買は無理と思うんですよ。男女の肉体関係的なことはさすがにね。でも、養子縁組という枠組みなら、元からして緩いんですよ。外国のセレブなんかは貧困国から子供を何人も買い上げていいように楽しんでるんですよ。何せ、1万、2万の世界ですから。日本人もソレをマネしたいンですが、なにせ入国制限が厳しい。肉類は干し肉だってダメですから。だから、現実面では国内での取引がメインになってくるんです。たとえば、会長さんの周りにちょっとした金を持ってて、連れ合いに先立たれたお年寄りはいませんかね?」

 そう言われたとたんに、私の脳裏には義行さんの顔がパッと浮かんだ。

 

                         続く