「アンタいい感じ。年が若いから。ジジイのフニャチン、しゃぶるの飽き飽きしてたんだ。突っ込めるのなんか滅多にいやしないんだから」ミサエは私の股間を凝視しながら言った。売春婦とはこういうもんだという態度をとっている。映画でも見て勉強したのだろうか?そういった世界では、下層に行くほど売春婦はこの女のように太ってくる。自意識が下等動物並みになってきて、何も気にならなくなってしまうからだ。自分が豚なら自分の肉を叩き売る気分なんだろう。

 私はミサエの瞳をじっくり見た。あにはからんや、怯えが見てとれた。彼女はこの世界では発展途上でいくところまでいってない。どこへ出しても一流のスレカラシになるには、まだ少し間があるようだ。本物の悪党とまだ出会ってないということだからな。真っ赤な夕陽の下で血の汗を流してない。

 「アノヨー、子供の順番てどうなってる?」私は例によって直球勝負でいった。

 「子供のこと聞いてどうするのよ?手ごろな娘がいたら手を着ける気でしょ?」ミサエの目が鋭くなった。娘に対する警戒の念は絶やさずに持っているようだ。

 「バカコケ、オレの息子が小児マヒで死んじまって、それ以来、子供というとほっとけないんだ」

 私は泣くふりをして目頭を手で覆った。

 「エッ」ミサエはハッとしている。どうやら本気にしたようだ。

 「ホラ、見てくれ。オレの息子の祐太朗だ。小学3年の時、小児マヒでいっちまった」私はそういって、財布の中から女を騙すときに使う小さな写真を出して見せた。それは会社の時枝さんの息子の写真で、デスクの中から盗んだモノである。今はもう、高校生になっているはずだ。私は大袈裟にガックリと膝を落とし床に座り込んだ。

 ミサエは手にした写真をじっくり見ながら、「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」といって自分もしゃがみ込み、私に写真を返しながら、「可愛い子ね。アナタにソックリ」といった。その頬は涙でいいように濡れていた。

 この手を何度使ったことか。写真はケバだってボロボロになっている。だがそれが、迫真感をますのだった。女の大半は信じられないほど頭がトロい。いくらなんだってこんなことでだませないだろうと思った幼稚な嘘でも平気で引っかかる。私は立って、写真を財布にしまった。当然、一滴の涙も流してなかった。

 「で、どうなんだ?あらましは?」私は再度聞いた。今後の方針を決めるにあたって、絶対に不可欠な項目である。

 「一等上が、中3で女、その下も女で中1,一番下が小5で男よ」とミサエはハッキリ答えた。

 「ムフーン」と私は大きく息を吐いた。一番下も女ならいうことないが、贅沢は禁物である。まずまずは満足できる仕様である。私は思惑に沿わないことを言った。「一番下は小5かあ。祐太朗を思い出すなあ」

 「子供は祐太朗君だけだったの?」とミサエが聞いてきた。

 「うん、だから結局、女房ともうまくいかなくなっちまって別れた。サア、トイレ行くベ」

 私はそういって歩き出した。

 用心深く周囲を見回して結局、男用に入ることにした。ミサエがいつも男のほうを使っていると言ったからだ。男は大のほうの個室を使うことは少ないし、さっさと出て行く。オマケに自分がいつも使っていることをみんな知っているから、ゴトゴト音がしても、またやってると見過ごしてくれるというわけであった。

 

                         続く