たった今、打ちたたいて強姦したい衝動がこみ上げてくるが、彼女は茂田井家の眷属である。そんなことは宗繁が恐ろしくてできっこない。

 「エラいことになりましたよ」高遠が電話口で喚いている。

 「どうした?」私はまだ洋子を見ている。赤いルージュの唇に自分の一物を押込みたかった。

 「土左衛門が上がりました」私の邪念を吹っ飛ばすような、前にも増しての大声である。

 ドザエモン?私はなんのことか瞬間わからなかった。ホリエモンなら知ってるけど・・・。「なんのことだ?」私はそう聞き返すしかなかった。静子がコーヒーを持ってきてくれた。私はブラックが好きだ。彼女はもちろん心得ている。

 「水死体ですよ。水死体。XX町の用水路から上がったんです」高遠の大声は続く。

 「ケッ、それならそうと、始めからそう言え。なんぼ東大だからって昭和の言葉使ってんじゃネエ。それになんでオメエが泡食ってんだ?どっかの百姓が酔っ払って落ちたんだろうよ。あるこっちゃネエか、騒ぐな」

 私はコーヒーをすすりながら事もなげに言った。

 「違うんですって。そいつ金子土木の作業服着てるんですよ」高遠は一旦言葉を切った。私の頭の中を金子土木のフレーズが駆け巡る。「まだわかりませんか?ちょっと前に行方不明になった奴がいたでしょ、そいつなんですよ」

 その言葉で私はハッと気づいた。コーヒーをゴクンと飲み干す。確か、秋田のほうの奴だった。名前は忘れたが、末野に警察に届けるように頼まれて、身元を書いたメモを渡されていたんだ。

 「ちゃんと届けは出したんでしょうね?それを確認したくって電話したんです。届けさえちゃんとしとけば、何の問題もないンです。だが、それを怠ったとなると痛くもない腹を探られることになる」そういわれる間中、私の頭は激しく回転していた。自分自身が警察に出向いてないことは確かである。ナラ、あの紙切れはどうしたか?私はすぐに思い当たった。周造に渡したんだ。親戚に警察官がいるから、オマエなら簡単だろうと言って彼に渡した。

 「周造だ。周造。奴に渡した。だって、アイツのオジさん、サツカンだしもってこいだと思ったんだ」私は怒鳴った。

 「そうか、周造さんに・・」高遠のトーンは明らかに落ちた。本人はとりあえずはホットしたんだろうけど、人任せにするなんてと非難されてるようにも思える。

 「ナラ、確認して下さいよ。周造さんに電話して確認してくださいよ。ま、代行さんだから会長のかわりにやったって構わないでしょうけど、でも、本当にやってあるかどうか確かめて下さい。やってあれば、なんの問題もないですから。あとで電話ください」そういって高遠の電話は切れた。

 「静子ーッ、オレのスマホ取ってきてくれ」私は受話器を置くなり怒鳴った。

 「今の時間なら、家にいると思いますわよ。その電話で大丈夫です。昼間まで寝てることなんかザラですから」

 洋子がそういうから、私は側の黒い番号表を取った。固定電話の番号がアイウエオ順に並んでいる厚紙でできているシロモノである。モ行に茂田井耕作とある。周造の死んだオヤジは耕作というのかな?そんなことはどうでもいい。私は番号をプッシュした。

 

                          続く