「ルセエーッ、10分位伸ばしたって死にゃしねえ。コレからもあるこった。技術は発展させないといけないだろう」

 三井は座ったまま平然という。

 「バッキャロウッ、死んだモノは生き返らないと言ってんだろうッ」私は三井に掴みかかろうとした。すると、三井が血相変えて喚いた。「死んだらそのまま埋めちまえばいいじゃネエか」

 その言葉を聞いて、私の心臓はドクンとなった。そうか、このヤロウは元々、金子を殺す気なんだな。理由はわからない。だが、そうに決まっている。私は穴に突進した。両手で土を掻き出していく。

 「ウオオーッ、金子出てこいッ」大声で叫んだ。

 「どけ!」タカと前川がすっ飛んできた。プロだからスコップを振るっている。埋まったモノを傷つけずに掘り出せるのだった。アッという間に金子の体は外に出された。私は泥まみれになって、穴の縁でジッと座っていた。そこへ三井が声をかけた。

 「なに慌ててんだよ」笑っている。「キンタマ縮こまってんのか?そんなこってどうするよ」

 私はカッときた。立ち上がりざま三井に突進する。それを、タカが押しとどめた。

 「おまえらいったい何やってんだーッ、大事な仕事の最中によ」私を捕まえながらも顔は三井に向けている。もの凄い形相である。「みっちゃん、これはアンタが悪いド。物事をやるんは計画ちゅうもんがある。その計画どおりやることが一番重要なんだ。手間を惜しむんじゃネエ。オレと保はよう、コイツがデクになるまで何度でも埋め直すつもりだ。夜が明けたって構わねえ。だから、喧嘩なんかやるんじゃネエ。黙々と仕事に邁進するんだ」

 「フン、脈をみろ」三井が叫んだ。側にいた前川が金子の手首を取った。「あるようだ」と前川。

 「タモツ、水を掛けろ」と三井。前川がペットボトルを取ってきて、金子の顔に水を浴びせかけた。フーという声と同時に金子の首が動いた。

 「埋めろ」三井が怒鳴った。戻ったタカが金子を穴に蹴落とした。前川がスコップで泥を落とし始めた。すぐにタカも加わる。私は穴をはいでた。立ち上がりざま三井を睨みつける。三井が向かってくるようなら、徹底的にやるつもりだった。だが、そうはならなかった。

 「わるかったな、修。でも、あんなに血相変えて怒るとは思わなかったな」三井が笑っている。私は胸をなで下ろした。

 「10分でやるべ。それでうまくいってるもん変える必要はネエ」三井はそういって、また大木に腰かけた。

 私はフーッと気が抜けて、しぼんでいく風船のようにその場にしゃがみ込んだ。三井の強さは身に浸みていた。絶対にやりたくない相手の一人であった。やったことはないが見たことはある。鬼としか例えようがなかった。

 また、10分たった。金子が掘り出された。タカが脈を見る。「まだ、打ってる。さっきより細いけどな。できたんじゃネエか?」独り言のように言う。前川が水を掛け始めた。反応がない。

 「もう一本持ってこい」様子を見下ろしていた三井が前川に言った。前川がその通りにして、上からドポドポ水を掛け始めた。ややあって、金子が口の中から黒い泥を吐き出した。

 「埋めろ」三井が怒鳴った。

 

                         続く