追い詰めればトンズラこかれる可能性が強かった。それを追うには金も時間もかかってしまう。第一、そんな馬鹿臭いことやる気もなかった。だから、女は諦めて男から金を引くことに決めた。100万がせいぜいだった。現実味のない金額をあげつらってみてもしょうがない。男はタダの機械工で金には縁のない男だったが、借金に借金を重ねてなんとか金を作った。それで、私も念書を書いて澄江とはキッパリ別れた。遠い昔のことである。それ以来会ってないが、今になって現われるとは範疇になかった。三井とは連絡を取り合っていたのだろうか?そうに決まっている。三井という男は一度唾着けた女は簡単には諦めない。隙あらば引き寄せようと狙っている。カスまで吸い付くそうという魂胆がある。

 「ここで、澄江が出てくるとはね。ヤッパ、オメエにはかなわねえな、三井」私は当てこすりを言った。

 「なにいいやがる。タマタマだよ。タマタマ。成り行きでそうなっただけだ」三井はバカにしたようにとぼける。ここで、何聞いても本当のことをいうとは思っていない。案の定、しばらくして澄江には娘が二人いることがわかって局面は一変する。女を金そのものととらえるのが我々の世界である。

 翌朝、早起きした私は朝食を急いでかっ込むと、パジェロで茂田井愛子を迎えに出かけた。早く出かけたのはもちろん、愛子と充分な性行為の時間を取るためである。玄関で顔を合わせた時から、彼女の表情は一皮剝けていた。直ぐに抱きついてきて唇を求めてきた。ヌルッと生温かい感触である。私の女になったことを強く意識している。女は一旦たがが外れるとこうなる。彼女の場合、封鎖期間が長かったので、破裂の仕方も大きい。仏壇の前での交合も大胆極まりなかった。さすがに、亡父の写真は取り外してあった。私は充分に堪能して彼女を連れて病院に向かった。

 「愛子さんとこは、元々庄屋さんだから土地もいっぱい持ってるんでしょう?」

 私はパジェロを走らせながら愛子の資産状況を探るため、世間話をするようにやんわりと切り出した。

 「お金のことですか?」車に乗ってからコッチ、彼女は私の左手を握って離さない。交通量の少ない田舎道を通るのだから、片手で走っていてもそんなに緊張感はない。そう言われたときはドキッとしたが、カンの鋭い人だから持って回った言い方は逆効果だと察した私はザックバランに行くことにした。唖然とされたりしたら、冗談ですよと笑えばいい。

 「そうなんですよ。今度、月例会もあるし、雇員に給料も出さなきゃならない。300万ほど用意できないですかね?」

 金額のほうは1千万と言おうとしたが、あまりにも非現実的だと思って300万にしたのだ。どうせ一度引ければ、後はズルズルと引けるから。

 「いいですよ。あさって取りに来て下さい。用意しときます」

 愛子はアッケラカンとして乗ってきた。どのくらい持っているのか知らないが、かなり引けそうだとの感触である。彼女が私のどこを気に入って良くしてくれるのかは謎である。ただ、持ち物が大きいからという単純な問題ではないと思う。もしそうなら、願ったり叶ったりなのだが・・。聞くことも憚られる。でも、あまり格好つけたりせずに、素の自分を出した方が良さそうだとはこの時感じた。だって、彼女ももったいつけたりとかそんなことしないからだ。一線を踏み越えてしまったという自覚がありのままの自分を出させているのかもしれない。あるいは元々がこうした脳天気な人なのかもしれない。そこのところはもう少し付き合ってみないとわからないところではある。

 

                        続く