出店もいろんなものが出ている。綿あめ、お面、焼きそば、いか、タコ焼き、古着、乾物、トウモロコシ、カレンダーなどいっぱいである。どこから湧いてきたのか、若者が結構な数いる。子供も多いから、夫婦者も相当数来てるのだろう。コロナで痛めつけられ続けていて、ここのところの緩和である。老若男女はしゃぎたくもなるだろう。我慢の限界という言葉もある。
これだけはやっていれば、吾神会はまるもうけだ。そんなことを思っていると、前から3人歩いてきた。年回りは大体私たちと同じようである。だが、どう見てもカタギとは違う。3人とも凶悪な面構えをしている。飢えた狼という、使い古しの言葉がピッタリはまる。テキ屋稼業は過酷な世界である。その色に染まれば、こういう風体になってしまうのであろう。
3人とも頬がこけている。まともなものを食ってない証拠である。ポケットのなかに5千円でも入っていればオンの字なんじゃないか。小汚い連中だとの印象でしかない。
彼らは近づいてくる間中、ずっと私と三井を見ていた。私たちは往来で足を止めた。そのまま行けば、彼らとぶつかることになるからだ。
「どこ行くんだ、あんたら?」
ジャンバーを着た体のがっしりした男が聞いてきた。コイツが兄貴分だろうと私は直感した。複数での対面は、大抵上のもんが初めに口をきく。
「どこって、お祭り見物ですよ。大したもんですねえ。こんなに景気いいとは思っていませんでした」
私はニタニタしながら答えた。
「おまえら、どっから来たんだ?」
格子縞のジャケットを着た男が言った。背が高くて痩せていて黄土色の皮膚をしている。吐く息が肥やしのように臭い。
「なんで、そんなこといわなきゃなんねえんだ?」三井がシラッとして言った。
「なんだと、このヤロウ」ジャケットが三井に手を出しかけたのを、革ジャンが制した。
「お前らがカタギじゃないのは見りゃわかる。別にアヤを着ける気はネエ。ただ、なんでウチの庭場に入って来たのか、訳を知りてえだけだ」革ジャンが言った。
「勘違いするなよ。おれたちゃ、稼業人でもなんでもねえ。ただのプータローだ。カタギだよ」
私は笑いながら言った。怖じ気を全く見せない私に、彼らは違和感を感じてるのかもしれない。沈黙が訪れた。
一番若そうなコートの男は顔を真っ赤にしている。本格的に手を出してくるのも時間の問題だと思われた。
私はその時、なにげに後ろを振り向いた。すると、前川が噂のオバさんと歩いてくるのが目に入った。ラッキー。
「前川ーッ、コッチだ」距離にしたら10メートルもない。私は大声で叫んだ。前川はビクッとして手を挙げた。走って近づいてくる。
「会長。お久しぶりです」前川が笑顔で挨拶する。
「いいな。彼女とデイトか。総会で一緒だった人だろ?」
私は小指を立てて聞いた。その女もある程度近づいた所で立ち止まって、ペコリと頭を下げた。
「会長には参っちゃうな-」前川が頭をかいて照れくさがった。
「ところで、どうしたんすか?コイツら」だから、すぐに向きを変えて邪魔な3人組を睨みつける。彼にそうされてたじろがないものはいない。3人組の顔色はすぐに変わった。
「オラー、明星で警備やっとる前川ちゅうもんじゃけどよ。アンタラなんない?うちの会長と副会長になんぞ用でもあるんかい?それとも、喧嘩かいや?ナラ、オレが買うぞ。いくらでもな」
前川が一歩踏み出すと、3人組は反射的に下がった。
「それならそうと言って下さいよー。オレらだって顔知ってるわけじゃなし、見回ってる以上、声かけんとならんから」
革ジャンが言った。
「あんたら、吾神会のもんか?」三井が聞いた。
「さいです。お見それしました」とジャケット。
「上には、誰々来てる?」三井が階段の上を指さして言った。
「うちの会長は患ってますもんで、幹事長の今井の兄貴、末野のオジキと金子社長、それに月王の尾藤さんが来てます」
「オッ、尾藤さん、見えてるんかい?コリャー、来たかいがあった」私は声を上げて喜んだ。
「案内しましょか?」ジャケットが言う。
「頼むか」私は言った「前川、お前も来い」
「ヘイ」と前川は返事して、女の所に行って何やら話している。待つようにとでも言ってるんだろう。
やはり、前川は見るものに恐怖とおぞましさを感じさせる。連れてったほうがいいと判断した。
続く