いろんなのが出て来た。カオルはもちろん無号機もでた。波に乗るとエバは凄い。アレと思うような驚愕の当たり方もあった。結局、14連して2万発オーバーした。私は大満足し、早々に引き上げることにした。勝つたら帰るその癖が身についてしまっている。勝っても負けてもパチ屋に長居しないことが原則である。3万使っているから5万なにがしの勝ちになる。充分すぎる。
啓太と涼は、私がドル箱を運ばせるのを自分の所から見ていた。彼らも5,6箱は積んでいる。いくら使ったかは知らないが。私は時間を確かめるふりをしてから、それぞれに引き上げる旨を告げた。二人とも顔を曇らせている。きっと、もっとやりたかったに違いない。これから夕方のゴールデンタイムにさしかかるしな。しかし、彼らは立ち上がって店員に終わりの合図をしている。統率は取れているように見えるが、腹の中はわからない。だが、私としてはそんなこといちいち気にしてられないのだった。この中では私が頭である。私は私のやりたいようにやる権利がある。そう思って、出玉のレシートを貰うと後も見ずに、景品交換所に向かった。
どうせ、彼らとは車で会う。その時までには、彼らも落ち着いているだろう。駐車場に一番最初に着いたから、ワゴン車に寄りかかって二人を待った。キーは涼が持っている。やがて、二人は揃って姿を表わした。車のドアを開ける前に、さそっく涼の文句が出た。エッという感じ。
「専務、少し早すぎやしませんかね。まだ、5時前ですよ」
「うん。それはわかっているが、ちょうど連チャンが止まったもんでな」私は答えた。
「なにも、即ヤメしなくったってもう少し様子を見たら良かったじゃないですか。出る台はトコトン出るっていうし」
涼は口を尖らせている。
「ナニーッ、じゃオレにヘタに打ち込んで玉を減らせっていうのか」私は血相を変えていた。
「減るか出るかはやってみないとわからないじゃないですか。とにかくオレはもうチイとやりたかったですね」涼が言う。
「ルセーッ、おまえの都合なんかいちいち気にしてられるか。オレはオレのやりたいようにやるんだ。おまえらはオレに着いてくるのが仕事だ」私は大声で吐き捨てた。
「そういう言い方って、カチンときますよね」涼は逆らう。
「なんだと、このガキ」私は涼に詰め寄った。涼は拳を構えた。私はゾッとした。奴のパンチは見えない。速いんだ。
「マアマアマア、ケンカはやめようね」啓太が待ってましたとばかりに割って入った。アリガトウ、啓太。私は胸をなで下ろした。
「大事なお仕事の前ですよ。ケンカしてどうすんですか。もう、マジでやめましょ。なにかってえと掴み合いだ。子供じゃないんだから、もうそろそろ卒業しないとね。涼。お前が悪い。会長に向かって食ってかかるとはどういう魂胆だ。あやまれ。半グレもカタギも一緒だぞ。上下関係はあるんだかんな。それを守らなきゃ、只の烏合の衆じゃないか」
啓太は涼に説教する。涼は構えを解いた。
「涼。オレの名前を言って見ろ」
私はジャギ風に怒鳴った。
やや、沈黙アリ。私は涼が笑い出しはしないかと危惧したが、彼はちゃんと答えた。
「大道修様です。失礼しました」と頭を下げる。
「ウム、わかりゃいいんだ。開けろ」ピコッという音。
私は偉そうにドアを引っ張った。
「ここから遠いのか?スナック」私は乗り込みながら涼に聞いた。もう、通常に戻っている。
「30分位すかねえ。一応、駅前ナンスよ」
涼も普通に戻っている。カッとしやすいが冷めるのも早いのである。
続く