「昨日、ちょと利奈に聞いたんだけどよ。おまえのとーちゃん、妙な死に方したってな?」

 濃厚な時間が終わって、私と敬子は汗みずくで余韻に浸っているかのように、並んで寝そべっていた。

 「あ、聞いたのね。そうなのよ。最初に見つけたのは卓也なのよ。それが言ったんだけど、おとーさん、素っ裸になって広間で死んでたんだって。体には黒い傷がいっぱいあったって」

 「なんだと、それじゃ、まるっきりの変死じゃないかい?」

 私は驚いて言った。「そいで、警察の見立ては?」

 「心不全。酔っ払って暴れたからそいうことになったって。ともかく、事故だって」敬子は言った。私の行為に満足したのか、すっかり従順の態度を見せている。

 「事故だあ?ふざけるなよ。マッパで死んでて体に傷がいっぱいあるとなりゃ、どうしたって殺しだろうがよ」私は言った。

 「これには裏がある。警察が犯人をかばってもみ消した可能性が大きい」

 「そんなこと言ったって、もう保険金は貰ってあるし、事故で処理されてるもの、どうしようのないね。それに、たとえ殺されていたっていまさら、悔しいからやり返すとか、そういう気持ちはないよ」敬子が言った。

 「う~ん」私はしばらく頭を回転さしてから言った。「そのほうがいいな。なにか裏があって誰かがおとーさんを殺したに違いないが、決して簡単じゃないね」

 「事件当初、兄弟四人で集まって話したんだけど、こっちもそういう意見になった。へたにいじるとややこしいことになると義行兄さん言ってた。見つけた卓也さんは悔しそうにしてたけど、結局、官憲が一旦事故と決めたならもう動かない。それで、終了なの。恐ろしいもんね。済んだ事件と言うことで誰も取り合わない」

 「それが事実だよ。それが権力というもんだ。とにかく奴らは真実を追究することなど元々必要としていない。カタを着けたいんだ。白でも黒でも灰色でもいい。そうしてしまうことが奴らの仕事なんだ。他のことには、誰一人として関心を示さない」

 「難しいこというのね。そんな人だとは思ってなかった」

 敬子は、感心したように私の顔を見る。そしてまた、下を擦りだした。

 「うまく言えないから、難しく聞こえるだけだ。語彙が足りないんだな。とにかく、とーさんの事件は忘れた方が良いな」

 私は、そうは言ったが事件の方からこちらに突進してくることがあるのではないかと危惧していた。それを避けるにはこの土地とおさらばすることが懸命だが、シェルターのことがある。私ははじめの一歩としてこの土地を選択した。ある程度、やってみないと引けない。

 「あした、義行さんに会わしてくれないか?今日は夜通しやってやるからよ」私は敬子を見て言った。

 「ナラ、いいよ」敬子はまた、ニッと笑った。

 「でも、利奈が来たらどうすんの?あのガッツキ、黙って見てるわけないよ」

 「そんなのケースバイケースだよ。気にすんな。手慣れたもんだろ」私は言った。

 うんと返事して、敬子は私に馬乗りになってきた。

 

                       続く