THE  HOURS  OF Etienne Chevalier JEAN FOUQUET より
(Musée Condé, CHANTILLY Preface by CHARLES STERLING, Introducition and Legends by CLAUDE SCAHAEFER THSAMES AND HUDSON LONDON 1972)

 Martyre de sainte Catherine,

 

右側で跪いているのがカタリナ。真ん中に彼女が宣告された“車裂きの刑”のための“車輪”が天使によって破壊されたところ。黄金伝説の記述による。「主の天使は4000人の異教徒を殺すほどの力で、車輪を押しつぶした。」

 下部の三つのメダイオンはカタリナの生涯の場面。左から,教養のあった彼女が何人かの文法学者と議論している場面,真ん中は皇帝によって死刑を宣告された人々を改宗させたばかりか,改宗者が投げ込まれた炎から無傷で立ち上がる場面,皇帝の命令で(車裂きの車が破壊されてしまったので)斬首される場面。

 カタリナは静かに跪いているのに対し,中央から右側は人々が争い,崩れ落ち,地面に横たわると動きが多い。

 背景は静かで美しいと思えば実はそうでもなく,右側が城で(  l'église et la tour du Temple de Parisと書いてあるものもあった),左側はおそらくMauntfocon の絞首台だろうとのこと。これは13世紀後半に建てられ1760年に破壊されたもの。フーケは Grandes Chroniques de France でも,これを描いている。

Illustration from the illuminated manuscript Grandes Chroniques de France depicting the burning of Amalrician heretics before King Philip II of France. In the background is the Gibbet of Montfaucon and, anachronistically, the Grosse Tour of the Temple fortress.
Date    between 1455 and 1460   Bibliothèque nationale de France, Paris

 これは Amalrician と言う異端者たちをフランス国王フィリップ二世が1210年に火刑に処した場面。この背景に描かれたMauntfocon の絞首台が,このシュヴァリエの装飾写本で描かれたものと同じ。

Détail des Grandes Chroniques de France enluminées par Jean Fouquet, fol. 236 recto.
Date    circa 1460

フーケは刑罰の象徴として,この構造物を背景に描いたのだろうか。当時の建築を時折挟み込んでくるのがフーケの興味深いところ。しかも好みの建物があって,繰り返し出てくる。ノ―トルダム,グラン・シャトレ,プチ・シャトレ,Gibbet of Montfaucon…。まだまだありそうだ。

 

聖カタリナにはいろいろな伝説があり、その一つに,天使がカタリナの遺体をシナイ山に運んだというものがあり,そこには6世紀にユスティニアヌス1世によって建立された聖カタリナ修道院がある。修道院は今も残っていて以前にブログでも書いた。カタリナ修道院がその地に建設されたのは伝説が背景にあったからと,いうことだったのだ。

 

 

聖カタリナは題材としても多く取り上げられている。同じミニアチュールから一つ。雰囲気は全くフーケとは異なるが。

Spitz Master (French, active about 1415 - 1425) - Saint Catherine Tended by the Angels and Visited by the Queen  The J. Paul Getty Museum

この場面は,カタリナが皇帝によって水も食べ物も与えずに投獄された時に,天使たちが彼女を養っていた。部屋に入ってくる王冠の女性は皇帝の妻で,この奉仕する天使をみて改宗したとのこと。フーケよりも一世代前の作品。左側には,カタリナが学者たちと議論している場面,右側には斬首の場面,下部には車輪も描かれ,素材としてはフーケの作品とさして変わらないが,同じ空間(のように見える)に描かれているので,違和感がある。それをメダイヨンに入れ込むというフーケの処理の仕方は,洗練されている。

 この装飾的な Spitz Master の作品も捨てがたい魅力があるが。