ちくま学芸文庫『隣の病い』より

『「精神医療改善の一計』についてです。


中井先生はタイトルの内容について、冒頭から


『精神医療の質の向上について、もっとも手近で、経費がかからず、有効性があると思われるのは、精神科病院、とくに公立病院の場合に満床を追求しないように方針を転換することである。』


以前下記のブログにも書いたとおり、満床を追求した結果起こった悲劇が、兵庫県の神出病院での虐待事件等の報告書に書かれています。


『「伝える」ことと「伝わる」こと⑤』前回から続きます。医療・福祉の仕事をしていて、なかなか報われないという点や下記の武井麻子先生の書かれた「感情労働」ともいわれる本来の仕事やそれ以外も含めた部分…リンクameblo.jp


現在、日本の精神科医療では、大阪府の退院促進事業を機に、地域移行支援という障害福祉サービスを利用しながらの退院→地域定着を目指していますが、依然として退院は進まない状況であります。


あと精神科医療は『精神科特例』といって、一般科よりも医師、看護師の配置が少なくて良いことになっていますが、中井先生は、


『精神医療は何も医師だけが担っているのではないことを100も承知の上で言うのだが、常勤医の数が多いと、てきめんに平均在院日数は減り、事故も少なくなるものである。』


『急激に法律を変えれば、員数合わせが起こるだけである。精神科医が1つの地域で倍になるには、研修医数が枠一杯ほど来ても10年以上かかる。病床当たりの医師数の規定をゆっくりと変え、20年位で、一般科に近づけるようにすればどうであろうか。事故率も平均財日数も必ず改善し、国民経済的にも引き合うと思われる。実際受け持ち患者が30名以下20名に近いと一人一人が個人と見えてくる。』


と書かれておられます。

この文章が書かれたのは1990年。

30年あまり経ち、精神科病棟に統合失調症やうつ病などの精神疾患だけでなく、内科疾患を併発しておられ、在宅生活をすることが難しい方や、認知症を患っておられる方、また社会的な課題として地域に住むにあたって建てられる、障害福祉サービスのグループホーム設立の反対運動など、さまざまな課題があります。

一方で治療に対する薬や、専門家と言われる方々の病気に対する知識や対応方法についてはずいぶんすすんだと思います。また治療側が、治療を受けている当事者から学ぶという姿勢や、医師と患者のSDM(共同意思決定)という形に変化してきたりと、だんだん変化してるように思います。


急に精神科病院がなくなる…というのはないとはおもいますが、どこかで覚悟して動くと、何かが変わる時期もいずれくると信じて、中井先生の本書かれている思い等を伝えさせていただきました。