現在50歳の長男は、赤ちゃんの頃から本当に育てにくい子どもだった。

授乳の後、うとうとしたので寝かせようとしたとたん、すぐに目を覚まして「ギャーッ!」。
抱っこするとまたうとうとするので、布団に寝かせると「ワーン!」。
母乳が足りないのかとミルクを飲ませても頑として口を開かず、無理に押し込むと舌で押し出してぐずり、

やっと眠ったかと思っても睡眠は浅く、少しの物音に目を覚まして泣き続ける。
首が据わらないうちは、とにかく抱いていなければ泣くため、

祖父母からは「抱き癖がついたのだから、放っておけ」と言われ、

しばらく泣き声に我慢してみるけれど、やがてひきつけを起こしそうな様子にまた抱き上げ…。
6か月で仕事に復帰し保育園に預けるようになり、やっと息子の泣き声から解放されたというのがその時の本音だった。

 

やがてハイハイから歩き出すと泣き続けることはなくなったが、今度はとにかく目が離せない。

好奇心と自分の身体能力の向上に従い、思いもよらないいたずらや、外に飛び出して道路に走り出したりと、

私は常に怒鳴ったり追いかけたりで本当に疲れた。

それは小学校に入学してからも変わらず、小学校の参観日で様子を見ても、
常に体のどこかが動いているし、何よりも先生の方を見ていない。
隣の子に話しかけていたり、窓の外に気をとられていたり、
先生の話を聞いていないのではないかとハラハラしているのだが、
先生が「じゃあ、これがわかる人は?」なんて質問をすると、
へ? 聞いてたの? とびっくりするような素早さで、「ハイ、ハーイ」と手を上げる。
先生が「ちゃんと聞いていなかっただろう」とばかりに注意する目論見で当てたら、
これが意外やちゃんと聞いていて正しく答えたりする。
四年生の時の担任の先生に、
「いやー、よく授業を壊されて困っちゃうんですよ。
すぐに突っ込み入れるし、聞いてないだろうと叱ろうとするとちゃんと答えちゃうしねえ」
なんて言われて、「ご迷惑かけて申し訳ありません」と何度頭を下げたことか。
でも、その先生はとても良い先生だったので、
「いやいや、元気が良すぎるってだけですから」と笑いながらおっしゃって下さり、
多分この子は、ずっと落ち着きのない子なんだなと覚悟していた。

 

そんな長男だったが、不思議なことに五年生になった頃から、別人のように落ち着いてきたのだ。
ある時そんな思い出話をしていて、
「きっと、脳内物質のドーパミンとかセレトニンのバランスが取れてきたんだろうね」
というと、息子がそれに応えて言った。

「そんなことが関係してるのかもしれないけど、俺、その頃、自分が見えた瞬間があるのを覚えてるんだ」
「え、自分が見えたって、ひょっとすると幽体離脱?」
「いや、そんなんじゃないんだ。学校に行く時に玄関で靴を履きながら、その自分を自分が見ているような感じっていうのかな。
それまでそんなことなかったから、『何だ、この感じは?』って思ったんだ。
それから、世界が変わったって言うか、もう一人の自分が自分を見ているような感じがすることが多くなってきた。
きっと、そのあたりから、周囲からどのように思われるのかって意識するようになったんだろうね。
だから、あんまり人に迷惑や心配をかけることをしなくなったんだろうと思う」

 

最近は少しはみ出したような子が「発達障がい」などと言われることが増えているようだ。

もしも長男が現在小学校に通っていたら、「お母さん、病院で調べてきてみてください」とか、

ひどい時には専門家でもないのに学校の先生が、

「この子は発達障害だと思うので、支援学級に行った方がいいです」なんていわれてしまうかもしれない。

(実際にそれに似たような話を聞いたことがある)

 

長男の担任の先生が、恐縮して頭を下げる私に対して、
「元気が良いってことですから大丈夫ですよ」と言ってくれた口調には、私への労わりもあった。
きっと長年の教師経験から、このような子は大丈夫という確信もあったのだろう。

そのようなゆとりをもって、ちょっとはみ出すような子を温かく見守る先生が今も多いことを願う。

 

ちなみに、育てにくく落ち着きがなく、多動傾向のあった長男はちゃんと成人し、

好奇心のままに自分のやりたい道を見つけてよく働き、それなりに認められるような仕事をしている。

実家で走り回っている息子を見た今は亡き祖母が、「この子は働き者になるよ」と言ってくれたことがある。

祖母や、あの頃の先生の言葉を、今更ながら感謝している。

 

【追記】

大切なことを書き忘れていました。

本人や家族がとても困るような状態なら、小児科や小児診療内科、相談機関などに相談するのは大切なことです。

学校の先生も「これは診断が必要だ」と思う時期には、そのような機関をお勧めすることも良いでしょう。

ただし、一番必要なことは、もしも発達障害と診断されたり、その疑いがあると言われた時には、

家庭での日常生活や学校現場でどのような対応が良いのかを、ちゃんと保護者に伝えることが大切だと思います。

ただ「発達障がい」と言われただけでは、保護者は戸惑い悩むばかりでしょう。

そのあたりがないがしろにされてはいないかと、危惧しています。