さくらとゲッコウがタイマンを繰り広げる光景を、グラウンド外からいくつかの人物が、観賞するかのように目にしていた。
1人は、マジ女と矢場久根が決戦を繰り広げるグラウンド近くの茂みに、身を隠しながら偵察を行っていた。
しかし、その人物は両者の戦いを偵察しているつもりだったが、いつしか戦いの迫力に押され、単純に驚いているようだった。
その人物は、激尾古の新3年生となり、今でも偵察係をしているKYだった。
KY「お~っ!…アイツ、アントニオさんを倒したから、本当に強いなぁ……」
KYは偵察していたつもりだが、いつしかさくらへのほのかな応援に変わっていた。
そして、校舎の東側のフェンスの先には小さな道路があり、フェンス越しから一台のバイクにまたがる、黒いライダースジャケットを着用した人物がいた。
その人物はヘルメットをかぶり、シールドのみを上げたままの状態で、さくらとゲッコウのタイマンを目にしていた。
さらに、その少し距離を置いた場所では、マカロンを食べながらバイクにまたがる人物と、さくらとゲッコウのタイマンを、交互に視線を向ける少女がいた。
とりあえず、マカロンを食べ終えた少女は、大きなあくびをして再びさくらとゲッコウのタイマンに、視線を向けた。
そんな3人が視線を注ぐさくらとゲッコウのタイマンは、熾烈さを増していく。
周りの戦いもほとんど終結し、マジ女と矢場久根の生徒たちの視線は、さくらとゲッコウに集中している。
激しく移り変わる攻防戦の中で、さくらとゲッコウは共に距離を置いて、視線をぶつけ合っていた。
そんな中でさくらが、一気にダッシュしてゲッコウとの距離を詰め、さらにストレートを放つために右腕を構えた。
さくらの行動から、次の攻撃を予測したゲッコウは、左足を軸に体重を集中させてから、上体をわずかに下ろして待ち構える。
そして、さくらが右ストレートを放った瞬間、ゲッコウは避けるような動きを見せるが、そこから一気に右足を前に出し、さくらのみぞおちに強烈なミドルキックを命中させた。
防御態勢がとれないまま、みぞおちに強烈な蹴りをいれられ、さくらは苦痛の表情を浮かべ、バランスを崩して倒れかける。
すかさずゲッコウは左腕を伸ばして、倒れかけていたさくらの右肩を強くつかんだ。
さくらに驚かす間も与えず、ゲッコウは勢いよく腕を畳んで、さくらを自分のもとへ引き寄せる。
すかさず、先ほどミドルキックを決めたみぞおちに、さらに右足で膝打ちを決めた。
さくら「ウッ……」
つい出たさくらの声を聞き、ゲッコウの余裕さのある笑いを浮かべ、さらに前蹴りをさくらに命中させた。
さくらは受け身を取りながら仰向けに倒れ、すぐに立ち上がろうとするも、みぞおちの痛みで今度はうつ伏せに倒れる。
呼吸も乱れ、今は自力で起き上がるのは難しそうだった。
さくらが倒れた瞬間、このタイマンを見ていたカミソリとゾンビは、一気に心配具合が上がってしまう。
カミソリ・ゾンビ「さくらさんっ!」
さくらの名前を叫んだ2人は、自然に加勢に向かおうとした。
しかし、2人の前にシアターが現れて静止させた。
カミソリとゾンビは怒りをあらわにする。
カミソリ「おい、そこどけよっ!」
ゾンビ「さくらさんのピンチなんだよっ!」
シアターは表情一つ変えず、一度さくらに視線を向けた後、カミソリとゾンビに視線を向けた。
シアター「これは宮脇のタイマンであり、大将戦だ。ウチらが手を貸すのは筋違いだ」
カミソリ「そんなの分かってるけど……」
ゾンビ「だけど……」
シアターはさくらの方へ振り返り、カミソリとゾンビにさらに語りかけた。
シアター「……舎弟だったら、とことん信じろよ。それに、お前らが知ってる宮脇は、あんなに弱くないだろ」
それを聞いたカミソリとゾンビは、不安な気持ちもいだきながらも、次の光景を見て不安が一気に吹っ飛んだ。
倒れていたさくらが、立ち上がっていた。