俺は救急車の中で天井をずっと見てるだけ。
色々聞かれたり、触られたり。

胸の痛みを伝えたら慌ただしくなった。
ドクターヘリがどうの。ドクターカーならどうの。
結局、どこかでドクターカーと合流するらしい。

中央道を走ってるらしい。
甲府の病院に搬送されるのは分かった。
胸は押されたら痛い程度なんで

俺は軽く考えてた。
プロテクターしてたし。
それよりも

甲府の病院に搬送されてどうなるのか?
入院しちゃうのか?
それが気掛かりだった。

多分、途中で人が代わったのかも知れない。
記憶がない。ドクターカーと合流したのか?
やたら

「バイクはどこの?」

「カワサキのバイクいいよね~」

「僕もカワサキだよ」
と言ってた先生?ていうか誰?
を凄く覚えてるw
多分、俺の意識を確認してたんだろうね。
「はい」としか答えられなかったけどw

まるでテレビの

「救命救急24時」そのままな感じで
ストレッチャーで処置室?に運ばれた俺は、
たくさんの人に

あちこち触られ、何かを貼られ、
注射を打たれ、レントゲンやらCTやら、

徹底的に調べられた。
特に骨折した手首を戻す治療?は

経験した事のない痛みだった。
カワサキを連呼してた先生?が

「痛いよね~」「痛いよね~」
って言ってたけど、

俺は「痛えっす」「痛えっす」しか
答えられなかったよw

検査・応急処置が終わり、

結局、手首の骨折のみ。
看護師さんから

荷物を受け取り、説明を聞き、
支払いは後日精算。

 



右手にギプスをしてタクシーで甲府駅へ。
左手で財布を出し、左手で切符を買い、
左手で荷物を持ち、

東京へ向かう特急に乗り込む。

「何やってんだ、俺」
電車に揺られながら色々と考えた。
その中で一つ決めた事があった。

俺は今まで大事なあいつ一人だけ
タンデムした事が数回あった。
山に行ったり、街を走ったり。
軽い気持ちで

「バイクの楽しさ」

「バイクの気持ち良さ」を
単純に味わって欲しかった。

共有したかった。
ただそれだけ。

でもこれからは誰も乗せない事にした。
大事な人達を怪我させるわけにはいかない。
こんな痛い思い。こんな辛い思い。
不自由な生活。
こんな経験なんて絶対要らない。
楽しいはずのバイクを嫌いになってしまう。

決めた事。
これからのバイク人生「バイクは一人で乗る」
怪我しても、万一の時も俺一人。
 

俺はそう決めた。