・・・やっちまった・・・

 

東京に帰んなきゃ。
まずそう思った。
とにかく家に帰ろう。

相方と一緒に帰ろう。
多分、軽い気持ちで、
なかった事にしたかったんだと思う。

ガードレールとフェンスの間に挟まった相方250TR。
ウインカーが割れ、タンクがへこんだ相方。
相方をを引き出そうと手を伸ばす。

 

「俺のせいで相方がこんな事に」
 

ふと右手を見たら「くの字」に曲がっている
そして全く動かない。
「まずいな。手首やっちまったか」

たまたま通りがかったライダーの方に手を挙げ、

すがる思いで助けを請うた。

Uターンして来てくれた
そのオフロードバイクに乗ったライダーの方は、
まず俺に寄り添ってくれ、
警察、救急に連絡をしてくれた。

俺は立ち尽くしてるだけ。

自分では冷静なつもりだったんだろうけど
パニック・放心状態だったんだろう。
 

なんとか保険会社に事故報告をし、
レッカーの手配をした。
 

努めて冷静に

連絡をしているつもりだったが、
手の震えは止まらない。
現実を全く受け入れられて

なかったんだろう。

 

大事なあいつにはなんとかLINEを入れたが

逆に心配させちまったか。

警察、救急が到着した。
俺の不始末で

何人もの人に迷惑をかけている。
 

警察から話を聞かれる。
救急から話を聞かれる。
何を聞かれたか全く覚えていない。
「やっちまったんだ」の後悔の念だけが
頭の中をグルグル回る。

救急隊員の方に促され、
救急車に乗り込む。
当事者として救急車に乗るのは初めてだ。

横たわった俺は救急車の天井を見てた時、
「あ、あの人の名前も聞かず、

お礼も言ってない」と気付いた。

後日、警察の担当の方から聞いた話で

助けてくれたそのライダーは

Kさんという方だった。

個人情報云々の関係で

直接Kさんと連絡は取れず、
警察の方にKさんにお礼がしたいと伝えた。

後日、警察の担当の方から

Kさんからの伝言ですと連絡があった。

「同じライダーとして当然の事をしたまでで、
礼には及びません。
もし、同じ立場になったら

ライダーを助けてあげてください」

俺は言葉が出なかった。
上っ面の定番なお礼で

自己満足を求めてたのか?
決してそういうわけじゃない。

全く赤の他人でも同じバイク乗り。

全く赤の他人から受けた「優しさ」
 

ライダー同士、

バイクを通した

見えない絆があるのかも知れない。

直接届く事はないお礼。
Kさん、ありがとうございました。