交通事故の脊髄損傷 -4ページ目

交通事故の脊髄損傷における将来雑費

 脊髄損傷のように重度の後遺障害が残った場合には、紙おむつ等の衛生用品が継続的に必要となることが多く、将来の雑費として認められるものがある。しかし、将来の雑費の算定においては、健常人の日常生活においても必要とされる食費、日用品購入等については、生活費として考慮されるべきものであり、損害賠償の対象となる雑費としては認められないものもある。また、将来の雑費として請求するものが、将来の治療費や介護費用に含まれるものであれば、二重に請求していることになるため認められないこととなる。


 認定された将来雑費については、日額1000円(名古屋地判平成20年12月2日)あるいは1500円(東京地判平成20年1月30日)程度として計算するものと、より細かく個々の費用を分析して算出しているもの(名古屋地判平成20年1月29日、痰を切るために使用する器具のレンタル費用とその他のおむつ、ガーゼ等の介護用品を分けて算出)とに分かれる。一般的には、現在の介護状態が続くのであれば、実際にかかっている費用を具体的に主張・立証することが不可欠である。


なお、裁判例上認められた雑費としては、摘便用手袋、落とし紙、ベビーオイル、ティッシュペーパー、特殊箸、特殊フォーク(大阪地判平成19年7月26日)、カテーテルやその消毒器具、冷却シート(千葉地佐倉支部判平成18年11月29日)、人工導尿のために、ネラトンカテーテル、セルフカテーテルセット、オールシリコンバルーンカテーテル、レッグパック、排尿袋であるハイポット、コンビーン、集尿袋であるユーローズバック、医療用粘着テープ、ゴム手袋(東京地判平成17年10月27日)、尿器、プラスチック手袋、ヒビスコール、濡れティッシュ、おむつ拭きティッシュ、チューブクリップ、リハビリのためのプライムウオーク用靴(名古屋地判平成17年10月4日)などの費用がある。




a 認めた裁判例

裁判例 東京地判平成20年1月30日

(自保ジャーナル第1738号)

年齢

25歳(事故時)

性別

女子

後遺障害の

内容

頚椎損傷による四肢麻痺及び呼吸筋麻痺

自賠責等級

1級1号

被害者側の

状況

事故後、現在(口頭弁論終結時)に至るまで頸髄損傷による四肢麻痺の状態で入院中であり、日常生活はほぼ全介助の状態。

認定された

内容

被害者が将来平均余命期間にわたって入院治療を継続するか否かは証拠上明らかではないとしつつ、被害者の後遺障害及び程度からして、オムツ等の雑費を要することは明らかであり、1日当たり1500円を認めるのが相当であるとし、平均余命まで中間利息を控除して1027万1373円を認めた。

 



b 否定した裁判例

裁判例 大阪地判平成17年9月21日

(自保ジャーナル第1630号)

年齢

59歳(症状固定時)

性別

男子

後遺障害の

内容

頚椎脱臼骨折に起因する四肢麻痺等

自賠責等級

1級1号

被害者側の

状況

被害者の介護として、バイタルサインチェック、褥創の処置、体位変換、排尿及び排便状況の観察、膀胱洗浄、摘便、洗顔、歯磨き、ひげ剃り、洗髪、爪きり、入浴、清拭、着替え、おむつ交換、食事及び飲水介助、四肢及び体幹の関節・筋の退化防止(リハビリテーション)などの作業ないし処置が必要となる。

認定された

内容

被害者は、生涯にわたって紙おむつ・尿取りパッド・タオル・ティッシュペーパーなどを消費し続けるため、介護雑費が必要と主張するが、健常者も生活に当たって雑費は必要であり、逸失利益の算定に際しては生活費控除をしていないところ、介護雑費は生活費の中から支出されるべきものであるから、別途介護雑費を損害として認めることはできない。

 本裁判例は、被害者に介護雑費が必要となることを認めつつも、介護雑費は生活費の中から支出されるべきものとして、別途介護雑費を損害として認めなかったものである。

 介護雑費が健常者の生活費以上にかかっている場合には、その部分を具体的に主張・立証する必要があることを示すものである。


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交通事故の脊髄損傷における車両購入・改造費

 脊髄損傷者が自立した生活を営む上では、移動手段の確保が重要になる。上肢のみで自動車の運転ができるように車両を改造したり、あるいは車椅子のまま乗れる自動車が必要になる。自動車についても、家屋と同様、他の家族も乗るような場合には、その家族の利便性を考えて車両購入費の一部のみを損害とする場合もある。


a 認めた裁判例

裁判例 東京地判平成13年7月31日

(自保ジャーナル第1415号)

年齢

24歳(事故時)

性別

男子

後遺障害の

内容

第5胸髄以下完全麻痺

自賠責等級

1級

被害者側の

状況

胸から下が完全に麻痺した状態であるたるため、外出するには被害者が運転できるように特別な改造を施した自動車を用いる必要がある。

認定された

内容

被害者の上記状況を認め、被害者が自動車を購入しその購入代金及び改造費用として191万4880円を支払ったこと、平均余命までの間、5年ごとに自動車を買い換える必要があり、その都度200万円を下回らない自動車購入代金及び改造費用がかかることを認め、中間利息を控除して、合計852万1680円を認めた。

 本裁判例は、被害者の後遺障害から、被害者が外出するには改造自動車を用いる必要があることを認め、被害者が既に購入している自動車購入代金及び改造費用をもとに、将来の買い換え費用等も認めたものである。

 本裁判例のように、既に自動車の購入・改造等を行っている場合には、必要性及び金額の立証は容易であろう。


b 否定した裁判例

裁判例 名古屋地判平成17年5月17日

(自保ジャーナル第1597号)

年齢

29歳(事故時)

性別

男子

後遺障害の

内容

高位脊髄麻痺、呼吸筋麻痺等

自賠責等級

1級3号

被害者側の

状況

被害者の後遺障害は、高位脊髄損傷等の重篤で、かつ、呼吸器系統に重大な障害を残すものであり、症状固定後もその状態を維持するために在宅治療を要する。

認定された

内容

被害者の後遺障害等からすると、被害者は在宅治療を要する状況であり、頻繁に外出する環境にはないとし、後遺障害のない人に比べ、外出時に介助等必要な費用がかかることは認められるものの、相当因果関係の範囲内にあるそれらの費用は他の損害項目において評価しており、身体障害者用改造自動車の費用を別途認めることは困難であるとした。

 本裁判例は、被害者の後遺障害が、呼吸筋麻痺等極めて重度であることなどから、被害者が頻繁に外出する環境にないことを重視し、自動車の改造費用を認めなかったものである。

 あまりに重度な後遺障害であり、治療・リハビリのためにしか外出しないような場合には、自動車購入・改造の必要性をより詳細に主張・立証することが不可欠であると思われる。



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交通事故の脊髄損傷における自宅改造費

後遺障害によって生じる被害者の日常生活上の困難をできるかぎり回避するために建物を改築あるいは新築したり、移動に便利なように設備を設置する必要が生ずることが多い。その場合、現実に改築、購入するのに必要な費用(支出した費用)がそのまま損害額になることもあるが(大阪地判平成19年12月10日、千葉地佐倉支部判平成18年11月29日、さいたま地判平成17年6月17日等)、その改造の必要性、支出額の相当性、さらには被害者以外の家族も改築などによって利益を得ている場合などが問題となることもあり、現実の費用額の一部に限定して損害賠償を認める裁判例(被害者側がもともと現実の費用の一部を損害として主張していることもある)が多く(名古屋地判平成20年12月2日、東京地判平成17年10月27日、大阪地判平成17年9月21日、さいたま地判平成16年1月14日等)また、全額について損害を否定した裁判例も少数ではあるが存在する(岡山地判平成元年5月29日)。


 なお、自宅改造に関する費用として裁判例上認められたものとしては、玄関電動引き戸システム、センサー付照明(名古屋地判平成20年12月2日)、玄関、ホール、洗面所、ユニットバスの拡大、幅広建具の設置、段差の解消、昇降機取付費用(名古屋地判平成20年1月29日)、身体障害者用のトイレ、浴室、天井走行リフト、昇降リフト、電動シャッター、換気扇等の換気設備等の設置費用に加え、身体障害者用トイレに設置されたウレタン製台座、電動シャッター、天井走行リフト、昇降リフト、換気扇等の換気設備の将来の交換費用(さいたま地判平成17年6月17日)などがある。


一部否定した裁判例

裁判例 名古屋地判平成14年3月25日

(自保ジャーナル第1453号)

年齢

21歳(事故時)

性別

女子

後遺障害の

内容

第1腰神経以下の完全麻痺、第1腰神経支配域以下の筋萎縮、下肢の関節の自動運動不能、膀胱、直腸機能全廃等等

自賠責等級

1級3号

被害者側の

状況

被害者は、被害者らの居宅において在宅療養するために、居宅を改造し、見積書によると住宅改造費用として551万0170円が必要であると見積もられていた。

認定された

内容

住宅改造の見積書の工事内容には、階段床カーペット撤去、敷込工事、セラムヒート防湿壁取付等その必要性に疑問があるものもあること、また、浴室、トイレ、洗面台等の工事は、被害者以外の家族の利便にも供することが認められるとして、見積額のうち被告に負担させるべき金額は8割とした。そして、原告らが公的扶助として市より身体障害者住宅改善費助成金25万円の給付を現実に受けたとして、助成金を控除した415万8136円を認めた。

さらに、被害者が請求していた将来取得する住宅の購入費用の一部3000万円(主位的)、あるいは現在の住居に将来改造する必要がある部分の改造費として2085万7725円(予備的)については、本件全証拠によっても、上記住宅購入や住宅改造の必要性を認めるに足りる証拠はないとして、認めなかった。

 

本裁判例は、被害者が請求する自宅改造費について、その8割のみを被告に負担させるべきとし、さらに現実に受けている公的扶助を控除して損害額を算出したものである。

 工事内容として、バリアフリー化等にとどまらず防湿壁取付等をしており、その必要性が立証できなかったことに加え、被害者の家族の利便性が上がったことを重視したものと思われる。



全額否定した裁判例

裁判例 岡山地判平成元年5月29日

(交民集22巻2号619頁)

年齢

37歳(症状固定時)

性別

男子

後遺障害の

内容

第5頸髄以下の完全麻痺等

自賠責等級

1級

被害者側の

状況

日常生活に全介助を必要としている。

認定された

内容

現在の住宅は、従来居住していた県営アパートが階段があるなど被害者の生活上の不便のため、本件事故後に新築(代金約2000万円)したものの、現実に居住してみたら、例えば玄関先のスロープが急であるとか、浴槽を埋込式にしているなど、種々不便な点がでてきた点を指摘し、これらはいずらも新築の時点で十分な配慮をすれば二重の出費を回避することができたはずであって、その費用の全部を被告らに求めることは過大な要求といわざるをえないとした。

また、現在の住宅の新築に要した費用のうち特に被害者の車椅子生活に適するように配慮したための余分な出費(家族の共益部分を除く。)などを損害の内容として検討する余地がないではないが、本件においては、証拠上これを確定することができないとし、被害者主張の住宅改造費について全額につき失当として認めなかった。


 

増額家賃について認めた裁判例

裁判例 東京地判平成7年3月7日

(交民集28巻2号380頁)

年齢

40歳(事故時)

性別

女子

後遺障害の

内容

両下肢機能全廃

自賠責等級

1級

被害者側の

状況

立ち上がることも歩行も一切できず、常時車椅子の使用を余儀なくされ、自力での排尿・排便も出来ない。

認定された

内容

原告が自宅での生活するために、台所、浴室、トイレ等家屋の改造が必要となったこと及びその他電動ベッド等の補助器具が必要となったとして、そのための費用215万円。

上記後遺障害のため、従前居住していた家屋に居住することができなくなり、住居を移転したため、1か月あたりの家賃が従前に比較して5万8230円増加したことを認め、家賃の差額につき本件事故と相当因果関係を有する損害としては5年分が相当とし、中間利息を控除して、302万5211円。

 


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