スウェーデン王立科学アカデミーは10月7日、2026年のノーベル化学賞を、化学物質のホモキラリティー(鏡像異性体<きょうぞういせいたい>の一方が偏っている状態)をつくりだす「不斉有機合成(ふせいゆうきごうせい)」と呼ばれる化学反応を誘導することを可能にした、硤合憲三(そあい・けんそう)・東京理科大学名誉教授、アンリ・カガン仏パリ南大学名誉教授の2氏に贈ると発表しました。![]()
カガン氏は1986年に化学反応を操作する新手法を発見。硤合氏は1995年、一方だけの異性体をつくりだす化学反応の設計に関する論文を発表。さらに2003年、二つの鏡像異性体(きょうぞういせいたい)のうち一方だけを生成する反応を実証しました。![]()
2人の功績により、医薬品製造のための反応を設計する科学者に大きな可能性が広がりました。![]()
硤合さんの記者会見での様子・・![]()
硤合さんは午後10時、報道関係者が集まった会見場に入りました。
「日本のレベルの高い土壌のなかで成果を出すことができたと考えている。まだまだわからないことがあるはず。今後も研究が進むように微力ながら尽力していきたい」
冒頭で、硤合さんはそう話しました。
スウェーデンからの知らせは、夕方、近所のスーパーに一人で食材を買いに行っていたときに、電話で受けたとのこと。
「著名なアンリ・カガン先生と一緒に受賞できるということがとてもうれしかった。ノーベル財団に研究が認められた。(これまで興味を持たなかった方にも)興味を向けていただけるきっかけになるのではないか」
「受賞は想定外か」と問われると、「自分で言ったらおこがましいんですが、受賞できても文句は言われないだろうと思っていた」と、報道陣を笑わせる場面も。自身の研究について「生命科学のそもそもの基本の基本。プラットフォーム」と説明し、「(授賞によって)その認識が深まるのではないか」と語りました。
研究して苦しかったことは? そう聞かれると、「はたから見たら苦しいことが続いていたかもしれないが、本人はそう思っていない」と話し、「研究は楽しく、これはすごいな、と思うこともある」と振り返りました。
目標となる化合物があるわけではなく、この分野の研究は複雑。「目標となる山があるかも分からない。暗い場所で頭にヘッドライトをつけてたどっている気分」と表現しました。
「優秀な学生ら、人との出会いに恵まれた」「学生の存在があって初めて(成果に)到達できた」と、感謝の思いも述べました。
研究で大事にしていることは何か? 硤合さんは「うまくいかないことがあっても、実験を行う」と強調しました。
硤合氏は「私の人生で最もエキサイティングな日だ」と話しました。![]()
日本の自然科学3分野のノーベル賞受賞は、28人目(米国籍3人を含む)。昨年の生理学・医学賞を受賞した坂口志文・大阪大学特任教授、化学賞の北川進・京都大学特別教授に続き、2年連続。化学賞は10人目。![]()
「受賞できても文句は言われないだろうと思っていた」と、報道陣を笑わせたとのこと。地道に苦労しながら「確かな実験」を積み重ねたことが、そのように話すことができたのだと思います。
硤合憲三名誉教授のノーベル化学賞受賞を心より祝いいたします!![]()
ネットに「不斉有機合成(ふせいゆうきごうせい)」のことが載っていました。比較的、やさしい解説なので紹介します。![]()
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“アミノ酸など一部の分子は、右手と左手のように鏡に写したような形の「鏡像異性体(きょうぞういせいたい)」が存在します。試験管内では通常、それらが同量ずつ生成されます。生命活動では一方が生成されるため、医薬品などを開発する際に、望ましい効果を発揮する一方の異性体だけをつくりだす方法の開発が長く望まれていました。
☆アミノ酸;タンパク質をつくる材料となる化合物です。
☆タンパク質;筋肉や臓器、皮膚、髪などをつくる材料になる大切な成分です。 体の構造を支えるだけでなく、酵素やホルモン、抗体の材料にもなります
*分子;物質をつくっている基本のとても小さな物質のかたまりで,そのものの 性質をもっている最小のものです
*「分子」は、原子が2つ以上くっついたもののこと。 例えば、2つの「水素 原子(H)」がくっつくと、「水素分子(H₂)」になります。 また、2つの「水 素原子(H)」と1つの「酸素原子(O)」がくっつくと、「水分子(H₂O)」と なります
順序立てて話すと
1.分子にも「右手」と「左手」があります
右手と左手は、鏡に映したような関係です。でも、向きを変えても、ぴったり重ねることはできません。分子にも、これと似た関係があります。立体的な並び方が鏡写しになっているのです。2つの分子を「右手型」「左手型」と呼んでいます
2.なぜ、右手型と左手型を区別するの?
体の中では、分子の形の違いが、働きの違いにつながることがあるからです。
右手用の手袋を想像してください。右手にはよく合いますが、左手にはうまく合いません。
一方は薬としてよく働く、もう一方は働きが弱い、あるいは別の作用を示すということが起こります。
3.普通につくると、両方ができやすい
右手型と左手型を区別する仕掛けがない反応では、両方が同じくらいできることがあります。たとえるなら、右手用の手袋が欲しいのに、右手用と左手用が半分ずつできてしまうようなものです。
そこで、反応の段階から、欲しい型ができやすくなるように工夫するのが「不斉有機合成(ふせいゆうきごうせい)」です。「できた後で選り分ける」のではなく、「つくるときから、欲しい方に偏らせる」のが基本の考え方です。
4.どうやって、欲しい方をつくるの?
代表的なのが、触媒(しょくばい)を使う方法です。
触媒は、化学反応を助けるものです。その触媒自身に右手・左手のような立体的な特徴を持たせると、反応する分子の向きや近づき方に差をつけられます。
立体的な特徴を持つ触媒が反応の向きを誘導して、人間の生命活動に多い左手型が多くできるようにします。
5.「不斉(ふせい)」という名前の意味は?
ここでの「不斉(ふせい)」は、ざっくりいうと、右と左を同じように扱わないというイメージです。不斉有機合成(ふせいゆうきごうせい)は「どちら向きの立体に組み立てるか」までコントロールする化学です。 特に、薬をつくるときに重要になります。
*不斉合成を使った実際の薬の例
・パーキンソン病治療薬(L-DOPA・レボドパ)
・2型糖尿病治療薬(シタグリプチン)
・胃食道逆流症など(エソメプラゾール)