多彩な役柄を個性豊かに演じ、実力派バイプレーヤーとして活躍する俳優・滝藤賢一さん。最新作の映画「遥(はる)かな町へ」(錦織良成監督)では、人生に悩み、妻子も仕事も捨てて失踪する中年男性を演じました。![]()
役作りには定評がある滝藤さん。しかし「今回の役には悩みました。僕自身も妻と子と暮らしていますが、僕は失踪なんてしませんからね。いきなり、ふらっといなくなる人って、どういう人なんだろう。監督に聞いても、十分には分からない。これは苦しみました」
とインタビューで話しています。![]()
舞台は鳥取県倉吉市。都会で働く48歳の博史(大谷亮平)は出張の帰途、妻子の待つ家へ帰る気がせず、ふらりと故郷の倉吉へ旅に出ます。
母の墓前で眠った博史。目を開くと35年前の世界でした。中学生に戻った博史(及川桃利)が生家の洋服店に行くと、滝藤さん演じる父・与志雄と母、妹が。密かに失踪を企む与志雄と、残された家族の苦労を知る博史。原作は鳥取県出身で『孤独のグルメ』などで知られる漫画家・谷口ジローの同名作品です。![]()
作中の大きな見どころは、街を去ろうとする与志雄が、思いとどまらせようとする博史に心中を打ち明ける場面。「これまで成り行きで生きてきた。違う生き方があるんじゃないか。今なら、まだ間に合うと思って…」と、夜の駅のホームで切々と語ります。映画は中年期ならではの葛藤に寄り添い、現実との折り合い方を優しく描きます。![]()
滝藤賢一さんの役作りのヒントは、倉吉の街。撮影期間の1カ月ほど、白壁土蔵の街並みを歩き、湧き水を飲み、地元の人と話をして土地に溶け込もうとしたとのこと。ある写真館の前を通ると、店頭に俳優・故三國連太郎氏の写真が飾ってあり、その写真を見て「与志雄というのは、放浪癖のある三國さんなんだ。」と思ったそうです。「与志雄の感じがつかめて、三國さんが僕の芝居を助けてくれる気がした。芝居を楽しむつもりで撮影に臨みました。その後、写真館は、この映画に出た僕たちの写真も飾ってくれるようになりました」と滝藤さんはある雑誌で話しています。![]()
滝藤さんは、私が好きな俳優・仲代達矢さんが主宰した「無名塾」出身です。映画「クライマーズ・ハイ」(2008年)で、航空事故の現場を見て心を病む新聞記者役を熱演し、私は「鮮烈な印象」が残っています。30代半ば以降は、多くの映画やドラマに引っ張りだこ。しかし内面は「毎日怖く、苦しかった」と話しています。![]()
また、ネットの情報には、“40代前半までは、もう仕事を続けられないんじゃないかと思うくらい、つらい時期がありました。たくさん仕事をいただけるようになって、主演もさせてもらえて。とにかく「頑張らないと」という思いでやっていたら、心のバランスがとれなくなったんです。一本一本の作品に丁寧に向き合うべきなんだけど、セリフを覚えて言っているだけっていう現場もあって、そんな自分も嫌でね。いまは働き方を見直して、心も体も充実しています”と載っています。![]()
「一生かけて、芝居というものを追究していきたい。それは、きっと面白いことですよ」 と言う謙虚な人柄で意欲的な考えの滝藤さんのこれからの活躍を期待したいです!![]()
![]()
*滝藤賢一(たきとう・けんいち);1976年愛知県生まれ。1998~2007年「無名塾」在籍。ドラマ「半沢直樹」で第68回日本放送映画芸術大賞優秀助演男優賞など