命や幸福もお金次第。とどまらない欲望を求め続けた先に何があるのか―。「生老病死(しょうろうびょうし)」(生まれること、老いること、病むこと、死ぬこと)がビジネス化するアメリカなどでの取材をもとに、国際ジャーナリスト堤未果さんが新著「すばらしい新世界」(集英社新書)を刊行しました。堤さんは「人間としての本当の幸せは何かに向かい合い、『違和感』を大切にすることが重要では」と訴えています。![]()
本書は約100年前にオルダス・ハクスリーが執筆した同名のディストピア小説が出発点。ハクスリーは科学技術が発達した近未来を舞台に、遺伝子操作と支配者による徹底した管理のもと、思考力や意思を手放した社会を野人・ジョンの視点をもとに描きました。堤さんは「学生時代に初めて読んだときに、効率が第一で、人の心や生き方も管理する世界観にぞっとした。しかし、現実はこの小説の世界と変わらなくなっている。予言書のようだと感じた」とインタビューで話しています。![]()
その言葉を裏付けるように、本書で紹介されるアメリカの現状は衝撃的です。賢くて容姿の優れた赤ちゃんを選ぶことができるサービスのポスターで埋め尽くされた地下鉄駅構内、亡くなったペットのクローンを700万円ほどでつくるサービス、「老化は欠陥」と見なし若返りサービスに大金をつぎ込む富裕層…。堤さんはこうした状況を克明に紹介するとともに「命や感情の領域まで資本主義が入り込んでいる」ことが背景にあると分析します。その上で「バイオテクノロジーの進化は否定しない。だが、その便利さや効率性と引き換えに、無駄と考えるものを排除しようとする思想が復活する危険性がある」と危機感を訴えます。![]()
この『すばらしい新世界』では、米国カリフォルニア州で暮らしていた堤さんの叔母が自ら安楽死を選び、この世を去ったことも明かされます。「バイバーイ」と満面の笑みで致死量の薬を飲んだ叔母。その後、堤さんは「ずっと暗闇の中にいるようだった」と思いながら本書の執筆に着手しました。苦しみに向かい合った後「死を効率的に管理するのではなく、最後まで尊厳を持って生きるために、苦しみを受け止める社会となることが必要なのでは」との思いがあったそうです。![]()
堤さんは「現在は人が尊厳を失わず生きるための分岐点」とみる。だからこそ「ハクスリーの描いた『新世界』のように、選択肢を放棄しないよう、この本が生きることを考えるきっかけになれば」と強調。「暴走を止めるために、『水を差す』存在が必要なのだと実感しています」![]()
「尊厳を持って生きるために、苦しみを受け止める社会となることが必要」との堤未果さんの言葉は、この社会で大切にしたいですね。![]()
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*堤未果(つつみ・みか);国際ジャーナリスト、東京都出身。国連、アムネスティ・インターナショナル・ニューヨーク支局員、米国野村証券を経てジャーナリストに転身。新書大賞、日本エッセイストクラブ賞を受賞した「ルポ 貧困大国アメリカ」など著書多数
