ネットに次の記事が載っていました。紹介します。![]()
“濱口竜介監督の最新作「急に具合が悪くなる」で、作品が国内外で高い評価を受けている濱口監督に、作品への思いを聞きました。
着想から5年の歳月をかけた、日本、フランス、ベルギー、ドイツによる国際共同製作です。
舞台はフランスのパリ。介護施設のディレクターを務めるマリー=ルー(ビルジニー・エフィラ)と、公演でパリを訪れていた演出家の真理(岡本多緒)が偶然出会います。マリー=ルーは理想の介護を実現するため奮闘しますが、うまくいきません。そんな時、真理が演出する舞台を見にいき、強く心を打たれます。公演後、マリー=ルーに真理は、自分が進行がんで余命半年であることを告げます。
原作の往復書簡
原作はがんの転移を経験しながら生き抜いた哲学者・宮野真生子さんと臨床現場の調査を重ねる文化人類学者・磯野真穂さんが交わした往復書簡の本です。濱口監督は原作を読み、「これほど映画にしたいものがほかになかった」と思うほど心が動かされたと言います。
「人間同士がこんなふうに出会うことができるのかと思いました。はじめは学者同士の対話だったものが、宮野さんのがんが深刻化するなかで、学者や友人を超えた“魂の分け合い”が始まっていくんです。それは名付けようのない関係性で、そういう関係性が存在すると知るだけで世の中に希望が持てる気がしました。この本を読んで得た感動を映画の観客にも受け渡せたら価値のあるものになるだろうなと」
強く心が引かれたものの「このままでは映画化は難しい」と、原作の精神を引き継ぎつつ設定を変えました。フランスの製作会社から共同製作の誘いを受けたのを機に、フランス人と日本人という設定にしたと言います。
「撮影中、主演の2人は本当に何かが通じ合っているようにしか見えないことがありました。(マリー=ルー役の)ビルジニーさんが、試写の後に『演じたというより自分の体験の記録みたいだ』と語っていて、それは自分が理想とする俳優の境地だったので、やりとげることができたのかな、と」
仏の施設を取材
フランスでは二つの介護施設を取材しました。どちらもケアを受ける人を、感情や意思を持つ個人として尊重する「ユマニチュード」という技法を取り入れていました。
「介護の現場だとケアをする側とされる側と完全に分かれてしまう。特に認知症患者の人たちは、知性や精神を失っていると見なされてしまいます。でもユマニチュードの考え方はそうではない。この人たちは認知能力が弱くなっているだけであって、その弱っている部分を補完するようにコミュニケーションすれば、今隠れている知性や精神にアクセスすることができるのだ、と」
その技法を取り入れるには時間も人手もかかります。取材した介護施設も、片方はうまくいっていませんでした。そこに自分たちの社会と共通する悩みを感じた濱口監督は、そちらをモデルに描くことにします。
抜け出す道とは
映画の中でマリー=ルーはユマニチュードのケアの技法を実践しようと奮闘しますが、ベテラン看護師から「現場の現実と合わない」と反発されます。真理とマリー=ルーは、理想を追求できない根本原因は何なのか、長時間労働や世界で起きている少子高齢化など、資本主義の矛盾について議論を深めていきます。
「そこで陥っている問題は、人を人として扱わせないような社会の構造から生じているということだと思うんです。その構造が作用することで、われわれは人を人として扱うような時間とか、余力というものを奪われているのだと思います」
原作では「資本主義」という言葉は一度出てくるだけですが、映画では「構造」とのたたかいまで話は及び…。
「(試写を見た人から)『あらがいの話ですね』と言われることがあります。単にあらがっているだけだと、わずかに残った時間も余力も構造に吸い尽くされてしまう印象があって…。不可能から可能への抜け道はどこにあるのかをキャラクターの身になって考えました」
「人を人として扱うことを困難にする状況は日本の映画界にもあります。根本的に労働時間に対する考え方に問題があります。人間の回復を前提としていない。人間は絶対に休養しないと回復しないわけです。それは若者であろうとなかろうと同じで、そうやって使い回されてしまえば、どんどんすり切れて業界にいられなくなる。この共通の構造が社会全体に働いているなら、観客に人ごとではないと感じてもらえるのでないかと思います」”
「共通の構造が社会全体に働いているなら、観客に人ごとではないと感じてもらえるのでないか」という濱口竜介監督の思いを、私達もしっかりと受け止めたいと思います。![]()
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*濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ);1978年、神奈川県生まれ。「ドライブ・マイ・カー」(21年)が米アカデミー賞とカンヌ、「偶然と想像」(21年)がベルリン、「悪は存在しない」(24年)がベネチア、と世界三大映画祭で主要賞を受賞。「急に具合が悪くなる」は6月19日から、全国公開。フランス・日本・ドイツ・ベルギー合作。3時間16分