ネットに総合診療医・香山リカさんのコラム「体に正直に 自然に生きる」が載っていました。紹介します。![]()
“診察中にまた泣いてしまいそうになった。
その患者さんをチカさんと呼ぼう。80代後半になって少しずつあちこちが弱って入院している。私が穂別にやって来た最初の頃から、診察室や待合室でいろいろな話をした。チカさんは地元の野草や山菜のことならなんでも知っており、今ではこちらが生徒でチカさんが先生のような間柄だ。
めっきり食欲が衰えたチカさんの病室を訪れるたび、私は「今日のお昼はどうでした?おかゆだけでも食べられた?」と食事のことばかりを尋ねてしまう。「ほしくないの、いまは無理よ」と首を横に振るチカさんに、つい「じゃタンパク質を強化したゼリーを食べてみますか?血液検査の値はこうなっていて」と検査結果を見せながらたたみかける私の顔を、チカさんはじっと見てひとこと。
「先生は、かわいいねぇ」
チカさんは、自分の体には限界が近づいてきているのを知っている。それでもしつこく「食べて」と言う私を、正直言ってうっとうしく感じているのだろう。そんな私に、「もう食事の話はやめてください」ではなくて、「かわいいねぇ」と言ったチカさん。私は、祖母からそう言われた幼稚園の頃に一気に戻ったような気がして、病室で思わず涙ぐんでしまったのだ。同時に、「本人が〝いまは無理〟と言っているのに、血液検査の数字を突きつけてあれこれ強要するのは間違っているな」と反省もした。
黙り込んだ私に、チカさんは言った。「元気になったらおすしを食べに行きたいな。そのときはつき合ってね」
私は何度もうなずいた。体に正直に自然に生きて、もし回復したら、そのときは心から喜んで楽しむ。そんなすてきな生き方はあるだろうか。チカさんから言われた「かわいい」という言葉を胸に、その日を待っている私だ。”![]()
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「体に正直に自然に生きて、もし回復したら、そのときは心から喜んで楽しむ。そんなすてきな生き方はあるだろう」は、とても素敵な言葉です!![]()
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