「Yさんがまた変なこと言ってるので、止めてください!」

 

こんな電話を入れたのは、東明館高校の学年主任だった。

東明館高校に進学したYは、早稲田や慶應義塾に進学することを考えていた。

 

 

東明館探求コースに行って、ひたすら探求の授業にかかりっきりになった。

 

地政学をマスターしていたYは、共通テスト・地理で、満点近くをたたき出し

評定で学年トップを維持していた。

 

本人には「自分が一番納得できる進学先を選べ。」

と、口癖のように言い、それを実行しているうちに

 

「早稲田大・社会科学部か、慶應義塾大・総合政策学部を目指す」

と考えていた。

 

この2学部は、地方の受験生に易しくなり、進学しやすい、という腹積もりもあった。

 

オープン・キャンパスにも参加し、やる気にもなっていた。

 

「Yを早慶に送り込む」という野望に最も近づいた、と思っていた。

 

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しかし、高校2年も終わりを迎えたころ、Yの志望校は様変わりしていた。

 

「コンシュルジュ(ホテルの相談係)になりたい」

と考えたようだ。

 

出世なんて眼中外

ただ、お客様のいる現場に立ちたい。

そう考えると、有名大学への進学など「論外」になる。

 

という事は、ホテル専門学校が最良の選択肢となる。

 

 

それを聞いた教諭陣と両親は大反対した。

「何を考えているんだ!?」と。

 

あらゆることを考えて思いとどまらせようとした。

 

しかし、そこは探究クラスで鍛えられた交渉術で、難なくこう答えたそうだ。

 

「それはあなたたちの願望であって、私の願望ではありません。」

 

「探究クラスに入って、好きなことをやっていい、って言ってたでしょう?!」

 

Yが自分で探し出したのは、(こういうところに探究の知恵が活かされている)

「YMCA国際ホテル専門学校」

 

帝国ホテル、リッツ・カールトン東京やマンダリン・オリエンタル東京など、高級ホテルでの実地研修など、多様な経験が積めるいい専門学校だ。

 

 

 

ついに教諭陣や両親は折れた。

 

一旦折れたら、後の行動は素早かった。

 

早速家探しと、一人暮らし練習だ。

 

自宅の2階を改装し、一人暮らし用に作り替えた。

 

週1~3回は、家族に夕食を振舞うなどして、着々と準備を進めた。

 

そして東京へ出発する日が来た。

 

両親がいない所で、小声で話しかけられた。

あまりにも多くの人に問われたので、最後の一人になった私に尋ねたのだろう。

「私の進路、残念と思いますか?間違っているでしょうか?」

 

私は一抹の残念さと共に、こう返事した。

「間違いのはずはないよ。立派な選択だ。」

 

早慶への推薦枠は、友人に渡した。

 

たった一人での旅立ち。

 

その笑顔は大きな希望ではちきれそうだった。

 

またいつか、ホテルのコンシュルジュになった時に、この気持ちはとっておこう。

 

最良の選択をした、と。