さて、4月中旬に一次選考を通過したメールが届きました。

次は二次選考に移ります。

 

一次選考はネット出願でOKでしたが、さすがに二次選考は書類の

提出が必要です。

二次審査で申告する内容

・大学の学生証(写真付)

・ 在学大学の在学証明書(原本)

・卒業高校の調査書(原本、開封無効)

・世帯全員分の住民票の写し(原本)

・所得・課税証明書又は非課税証明書・住民税決定証明等の原本

・健康保険証:(A4の用紙にコピーしたもの)

小論文(800字以内)

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さて、その「小論文」はこのようなものです。

2020年・二次選考小論文

「大学生活で何をしたいのか。その先の将来、社会で何を、どうしたいのか」

考えたらとんでもなくうんちくが深い、前回の一次小論文に比べれば、比較的具体的ですが、やはり壮大なテーマです。

 

 

私はこの小論文を書く前に、こう伝えました。

「書くテーマを出来れば1つ、多くても2つまでに絞るように。」

800字もあれば、いろいろな話題を盛り込める、と考える方もおられるでしょう。

しかし、そうすると各話題の内容が薄っぺらくなり、ただ興味を持ってる話題の羅列にしかならない、ということも起こりがちです。

 

ここで、難関国立大入試の論述問題対策の手法を採りました。

 

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国立大学個別(二次)試験の社会では、東大世界史第一問「600字大論述」や、一橋大学の「大問3題・計1.200字」など、かなり長めの論述問題が出題されます。

・・・とはいえ、それに赤本や青本のような「模範解答レベルの完璧な解答」を要求されているわけではありません。

 

せいぜい「6割前後書けて、合格ラインクリア」という程度です。

(これは「内容的に6割」、という意味であって、「とりあえず6割程度解答欄を埋めておけばOK」,という訳ではありません。)

①とにかく基礎知識を詰め込みましょう。

センター7割程度の知識では、人物名や政策、事件などの正式名がちゃんと書けません。

漢字のミスは、間違いなく0点です。

 

しかし、センター地理・歴史で9割取れる生徒が、これをやっても「ほぼ0点」になる場合もあるのです。

それはなぜか?

 

②大樹のように、太い幹に枝葉をつけていくように纏めましょう。

その歴史の流れをつかみ、それを「一本の幹」になぞらえ、そこに先述の基礎知識や用語を付け加えていきましょう。

 

そうしないと、前後関係が逆だったり、途中で重箱の隅をつつくような豆知識にはまり込んで、結論に至らない文章になってしまいます。

 

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他にも気を付けなければならない点がいくつかありますが、今回特に注意すべきなのは、以下の点です。

「問題が大局的であるなら、解答は逆に断定的であれ。」

仮に

「世界の宗教を大別せよ。」

などという壮大な問題があれば

「世界三大宗教(キリスト教・イスラム教・仏教)の大別」のみを語らなければなりません。

これに

「インドにはジャイナ教という古代宗教もあるが・・」

だの

「イランにはゾロアスター教もある。」

「日本には神道というものがあり・・・」

だの、そんな重箱の隅をつつくような事をつらつらと述べていたら、纏まるものも纏まりません。

「キリスト教は、カトリック・プロテスタント・東方正教と3つに分かれた。」

「イスラム教は、スンニ派とシーア派に分かれた。」

「仏教は、大乗仏教と小乗仏教に分かれた。」

このように大別して、個別に(知ってることだけを)はっきりと述べていくと、印象が良く高得点が取れます。

採点する教官「うん、問題のエッセンスをまんべんなく捉えているね。」

 

「木を見て森を見ず」

この罠に陥らないようにしなければなりません。

 

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このようなことを踏まえた上で、早速正確な基礎知識を改めて詰め込みます。

使用するのは「現代用語の基礎知識2020」(自由国民社)

そして、10年分・100冊以上もの「ナショナルジオグラフィック日本版」(日経新聞社)

 

これらで基礎知識を備えた上で、早速小論文を書き始めました。

 

 

ところが、彼女の知的好奇心と博覧強記ぶりが災いしました。

書きたい話題が多すぎました。

「不偏で正確な報道組織の確立」

「世界の貧困問題の解消のためのNGO設立の課題と解決策」

「新薬の貧困層への投与を目的にした、安価なジェネリック医薬品の認可の推進」

「世界の食糧事情改善のために、現代の食糧生産システムの改革の必要性」

 

それぞれ「重量級」というほどの重く熱いテーマでしたが、これを全部盛り込んだら、とても800字以内程度の短い文で読み応えのある小論文を書くのは無理です。

 

もしこの小論文に、これらのテーマをいくつも羅列して書こうとするなら、これほど容易いことはありません。

PCで検索して、そこそこまとまっている文章をコピペして、文言を整えれば、それなりの小論文の完成です。

 

しかし、私はあえてテーマを2つに絞りその2つを「深掘り」するように伝えました。

その方が、「私はこのテーマに、深い関心を持っている。」と主張できるからです。

「薄っぺらい知識を、大量に持っているだけの物知り」と一線を画すことが出来ます。

 

このキーエンス奨学金に応募したのは、おそらく100.000人は下らない、と考えてます。

それを一次選考で厳選しても、二次選考に残ったのは、おそらく10.000人はいることでしょう。

その中で、500人。

実質倍率・20倍ともなれば、彼女と同等、いや、それ以上の博識と知的腕力の持ち主との争奪戦となります。

 

ここで必要なのは

「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」的な「総花的小論文」ではなく、

「タマは一発。静かに標的のど真ん中に一発命中」的な、「シンプルで力のある小論文」です。

 

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「残り3コマ、797字」で、小論文を書き上げました。

その小論文を読むと、それまでになかった文章がありました。

 

高校1年生の夏に経験した「九州北部豪雨」

当時から生徒会活動を活発にやっていた彼女でしたが、その災害にボランティア活動をしようと思いついたものの、期末試験対策や体育祭準備などでもたついたせいで初動が遅れて、他の高校に先んじられてしまいました。

 

地元の高校でありながら、行動が遅すぎた後悔。

彼女はそれを短いながらも赤裸々に語り、段落をこう纏めていました。

「もう、後悔したくありません。」

 

一点の曇りもない、見事な小論文でした。

 

そして2か月後の6月、「二次審査の内定」のメールが、彼女のスマホに届きました。

 

 

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その後で、彼女はこう語りました。

「塾にいた2年間の中で、あれほど深く勉強したことはなかったですね。」

 

SNS上ではキーエンス奨学金の選考に漏れた人からの

「やはり年収が低いことが重視されてる」

というような意見が散見されます。

 

しかし最後に、キーエンス財団の選考委員の目を微笑ませるのは、

「個の人間の力と、それを余すことなく表現する知識と作文力」

 

それが最後で問われるのだ、と思います。