7月になりました。

雨が降る季節です。

晴耕雨読。

良い本と巡り会いたいです。

 

柚木麻子「BUTTER」

複数の男性に近づき財産を奪い、殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(カジマナ)。

若くも美しくもない彼女がなぜ男たちをひきつけるのか興味をもった週刊誌記者の

里佳は親友の伶子の助言をもとに梶井の面会を取り付ける。

フェミニストとフェイクを嫌悪する梶井は、面談に応じる条件を出し里佳に

〈あること〉を命じる。マジカナの欲望を代わりに果たす数々の条件を達成し、

彼女と面談する度に里佳の内面も外見も変貌していく…

マジカナの出す条件がバターにまつわるものが多く、里佳がそれを体験する描写を

読んでいるとバターごはんやバターのたっぷり入ったケーキ、バターをのせた

ラーメンなどとても美味しそうで試したくなりました。

マジカナが『私は本物がわかる人としかお付き合いしません』と語っていましたが、

『本物がわかる』ってどういうことなのかなぁ。

里佳は、モノの価値を語り合う友もなく生きてきたマジカナに振り回されたのかと

思いました。

途中怜子がマジカナに面談に行くあたりからストーリーの流れや雰囲気が変化して

しまい、ラストもマジカナを置き去りにした、予定調和な感じになっていたのが、

マジカナと里佳の対峙をもっと見たかったので、少し残念に思いました。

『他人からの目を気にして禁欲的に生活し、ちまちま生きる女性たちに腹が

たった…』とのことですが、他人の目を気にするのはばかばかしいですが、

バターまみれ(自分優先)の生活もいいけど、たまのバター(解放)が良いのになぁ

と思いましたケロ。

 

 

朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」

植物状態のまま病院で眠る智也と、献身的に見守る雄介は小学校時代からの

付き合い。

競争事が好きな雄介とそれを見守る智也の姿が小学校時代転校生として二人と

出会った少年や世間の注目を浴びようとする大学生、時代に取り残された中年

ディレクターを通して描かれている。

小学校時代に運動会で危険な棒倒しも組体操もなくなり、勝敗もなくなった

テストの順位が張り出されなくなり、相対評価から絶対評価に変わり、

自分の『位置』がわからないまま、何かと戦っているように見せかけ暮らしてきた

雄介とそれを傍で見つめてきた智也。

○○な自分という箔(ブランドをつけるために)行動しているようで、

目的と手段が逆転していることが、痛々しい。

そこがタイトルの意味するところでしょうか。

最後に雄介は『役割』を得て、心が落ち着いた人に見えるところが皮肉な感じです。

ナンバーワンよりオンリーワン、個性を大切にしようという風潮になると、

個性を持たなくてはいけなくなり、それは、その方がしんどい感じがしました。

自分の『位置』を確認・実感するには、GPSのように数か所の衛星(他者)の

存在が必要だなと思いましたケロ。

 

 

窪美澄「夜空に浮かぶ欠けた月たち」

東京の大学に進学したものの環境に馴染めず、何もかもしんどくなってしまった澪は

バイト先の喫茶店の女性オーナー・純に勧められ「椎木メンタルクリニック」を訪れる。

普通の民家のようなクリニックでは精神科医の旬と妻でカウンセラーのさおりが、

様々な悩みを持つ患者に寄り添い、回復を支えていた…

澪の他にも、発達障害で仕事に支障をきたす男性、付き合った人に利用されやすい

女性、産後うつ、子供を失った悲しみから抜け出せない女性などの物語が描かれて

います。

誰もが精神的にしんどくなる可能性があるのだと思いました。

椎木メンタルクリニックのような敷居の低い心療内科があるといいと思いました。

また喫茶純も素敵でした。

回復には時間がかかります。信頼できる医療と同時に安心できる場所が必要だと

思いました。

安心を感じさせる人に巡り会えることは、貴重で幸せなことですケロ。