今回の3冊です。

 

辻村深月「朝が来る」

タワマンの上階に住む清和と佐都子は数年にわたる不妊治療にも結果が出ず、

二人での生活を考え始めた時に、特別養子縁組団体『ベビーバトン』を知る。

両親が教師の中学生の片倉ひかりは、同級の巧と付き合い妊娠。

親が探した広島の『ベビーバトン』で出産まで過ごし、生まれた子は

特別養子縁組でもらわれ、ひかりは何もなかったように中学生生活に戻る。

数年たち佐都子らはひかりを名乗る女性から『子供を返してほしい』と言われるが、

夫婦はひかりではないと感じる…

ひかりの転落ぶりが痛々しい。

名門女子高に入学した姉や同級生たちよりも早く性交渉をし、彼らよりも

大人であると優越感に浸っていたひかりは、結局誰よりも子供で、

子供のまま大人の歳になった感じです。

その時その時でひかりの思いも“なるほど、そう思ったんや”とは思えても、

潔白な母親の思いやりのなさを引っ張り出しても母親は悪者にはできない

と思いました。

考えなく自分の居場所・自分というものを失っていったひかり。

ラストで光が見えたのでほっとしましたケロ。

 

 

窪美澄「じっと手を見る」

富士山の近くの地方都市で“一生ものの職”と言われる介護職に就く日奈と海斗。

二人はなんとなくつきあっていたが、そこに東京で編集デザインをする宮澤が現れ、

日奈は宮澤に惹かれるようになるが、宮澤が姿を現さなくなり、宮澤を追って

日奈は街を出る。家族を支えながら街で生活を続ける海斗は後輩の介護士・畑中と

関係を深めていくが…

おじいちゃんと暮らした家に住む日奈や樹海で自殺未遂した父を持つ海斗だけでなく

エリート育ちの宮澤にもままならない閉塞感を感じます。

樹海の近くの街、高齢者施設など死をリアルに感じるところにいる日奈と海斗。

宮澤を追って地元を出た日奈と地元に残り畑中に翻弄されながらもすこし

ステップアップした海斗。

元の地点に戻った二人ですが、灯りの見えるラストで良かったですケロ。

 

 

柚木麻子「らんたん」

伊勢神宮の神職だった一家が、北海道に移住、新渡戸稲造との出会いから

アメリカ留学を経て女子教育に身を捧げた河井道と彼女のシスターフッド・

一色ゆりを描いた物語。

本の紹介で『天璋院篤姫が名付け親だという一色乕児は、渡辺ゆりにプロポーズ

した』とあったので一色乕児さんが主人公かと思い読み始めましたが、違いました…

河井道と一色ゆりを中心に津田梅子、大山捨松、平塚らいてう、神近市子、

市川房枝、山川菊栄、伊藤野枝、村岡花子、広岡浅子など明治から戦後にかけての

フェミニズムや女性教育に取り組んだ女性たちが次々に登場。

村岡花子さんや広岡浅子さんは朝ドラの主人公にもなった人物で興味深く

読みました。村岡花子さんが出て来ると当然白蓮さんも登場。

男性陣では新渡戸稲造のほか、有島武郎や野口英世、伊藤博文、最後には

白洲次郎まで登場し盛りだくさん(過ぎる)の内容でした。

登場人物たちを取り巻くエピソードが面白すぎて削れなかったのかなと

思いました。

『(自分の足元だけを照らす)提灯ではなく(街を明るくする)街灯を』という

シェアの精神。

『どんな人間でも、幸せに満ち足りて暮らすべき。そうでなければ、苦しんで

いる人にシェアができない。明るく生きるということを低く見るべきではない』

凛とした前向きな言葉だと思いました。

私たちが普通に教育を受け、(まだ不十分ですが)働いている状況も彼女らの

活動なしには得られなかったものだとあらためて感じました。

今、LGBTなど新たな人権の問題が出ていますが、これにどう向き合うかが

未来の人たちの人生に関わってくるのだと思いましたケロ。