今年初めての『今回の3冊』です。

今年もぼちぼち読んでいきたいです。

 

寺地はるな「大人は泣かないと思っていた」

九州の田舎町に住む32歳の時田翼。母親は父親と離婚し家を出たため、

周囲とうまくやれない酒飲みの父親と二人暮らし。

翼や父母、幼い時からの親友、同僚、最近知り合った若い女性などそれぞれの

視点から描いた連続短編集。

それぞれの章の主人公が家族とは、結婚とは、女性とは…“こういうものだ”という

固定観念と向き合っていますが、ゆったりと丁寧に描かれていて、

しかもブレていないので読み心地がとても良かったです。

最後まで父親も母親も価値観は変わらないけど、それぞれに優しい目が持てるのは

“この人たちも泣いている”ことを知ったからだと思います。

翼もいい人ですが、知り合った若い女性・小柳レモン、幼馴染みの鉄腕とその恋人、

同僚…良い感じの人たちばかりで清々しい気持ちになりましたケロ。

 

 

山本文緒「プラナリア」

23歳で乳がんになった春香。大学生の彼氏は、がんは無くなったのに

乳がんであることを公言し、何もする気が起こらない春香に苦言を呈するが…

「プラナリア」ほか“無職”をテーマにした短編集。

若くしてがんになったり、夫の会社で働いていた女性が夫から一方的に離婚を

言い渡され、離婚と同時に職も失ってしまったり、まさに青天の霹靂。

次へのステップを踏み出せない本人にしかわからない心情をうまく

言葉にしていると思いました。

自分の心の中でモヤモヤ感じることを、小説の中でうまく表現されていると

何だか考えがすっきりしたような感じになります。

本を読んでいるときのそういう感覚が好きですケロ。

 

 

角田光代「タラント」

39歳の山辺みのりは大学進学とともに上京し今は夫と二人暮らし。

みのりは大学でボランティアサークルに入り、そこで海外ボランティアに出会った。

就職後もスタディツアーに参加するが、その意義を答えを見つけられずにいた。

そして参加したツアーで“正義感”からしたことで大きな後悔を抱えることになる…

戦争で片足を失った91歳になるみのりの祖父の物語を挟みながら

みのりの大学時代から現在までが描かれています。

ボランティアサークルで知り合い、今も海外の厳しい状況と向き合う友人たちや

引きこもりの甥、パラスポーツの選手、その選手を通して初めて知った祖父の思い。

彼らのかかわりの中でみのりは自分のタラントに気づきます。

タラントとは聖書に出てくる言葉で、神からの賜物・才能(タレントの語源)

だそうです。

誠実に生きていくことそのものがタラントのようにも思いますが、

自分にどんなものが与えられたのか、それに対し自分がどう生きるのかを

意識すると生き方も変わってくるように思いました。

自分自身を見つめることと、ものごとを俯瞰して見ること。

両方意識したいと思いましたケロ。