ショートストーリー1047 | 丸次郎 「ショート・ストーリー」

「私と別れられるとでも思ってるわけ?...ふふっ、甘いわよ!」

 

 

 

裕子は、そう言って不敵な笑みを浮かべ、ゴールドのシガレットケースから煙草を1本取り出すと、金無垢のライターで着火した。

 

 

 

「ふ~~~...あなたも1本、どう?」

 

 

 

グロスで濡れた魅惑的な唇から紫煙を噴きながら、裕子がシガレットケースを差し出し、言った。

 

 

 

 

「私は結構。..生憎、禁煙中でね。...それに煙草も以前に比べ、だいぶ高くなったからね。」

 

 

 

 

「あら、そうなの。...けち臭い理由ね。...煙草ぐらい買ってあげましょうか?」

 

 

 

道雄の返答に、裕子は長い髪を撫でつけながら、そう返した。

 

 

 

「どう足掻いても、君と別れられないというのなら、彼女を連れて駆け落ちでもするかな?」

 

 

 

道雄は、独り言のようにそう言うと、腕時計に目をやり、ホテルの窓ごしに海を見つめた。

 

 

「ふふっ、面白いこと言うじゃない。...」
 

 

 

そう言って、裕子は、ベッドサイドから立ち上がると、窓際にいる道雄の背後に立ち、耳元で囁くように言った。

 

 

 

「あなたに、出来るかしらね?...そんな大胆なこと。...ふふっ」

 

 

 

その言葉に道雄は振り向くことなく、ただ黙っていた。

 

 

 

すると裕子の腕が背後から道雄の胸や腹に伸び、愛撫のように弄り始めた。

 

 

 

やがて、裕子の手が道雄の首筋を伝い、唇を弄び始めた時、道雄は、その手を強く掴み、振り返った。
 

 

 

「どういうつもりだ?...さっき抱いたばかりだろう。」
 

 

 

道雄が手を離すことなく言うと、裕子は笑みを浮かべ言った。
 

 

 

 

「だって、あなたが変なこと言うから。...浮気相手と駆け落ちするだなんて。...」

 

 

 

裕子は道雄の目をじっと見つめ、空いているもう一方の手で、道雄の腰を擦り始めた。

 

 

 

「いい加減にしないか!」
 

 

 

道雄は強い口調でそう言うと、裕子をベッドに突き飛ばした。

 

 

 

裕子は抗うこともなく、ベッドに倒れると、そのまま起き上がろうとはしなかった。

 

 

 

「ねぇ?...私のこと、本当に嫌いになったの?」

 

 

寝たままの裕子が、真顔で言った。

 

 

 

「あぁ、...もう、君への愛は冷めたよ。」

 

 

 

道雄は立ったまま、見下ろすように裕子を見つめ、答えた。

 

 

 

「ふ~~ん。...それじゃ、さっきは愛も無いのに私を抱いたってわけね。...最低。」

 

 

 

見上げながらそう言う裕子の顔には、含みの感じられる微笑が浮かんでいた。
 

 

 

裕子の言葉に、何も返せない道雄。...

 

 

 

「結局、体が目的なだけの恋か。...そんなの恋なんて呼べるような代物でもないけど。...」
 

 

 

呆れたような口調で、裕子が呟いた。
 

 

 

視線を外した道雄に、裕子は尚も続けた。

 

 

 

「可哀想に。..今度の女も、肉体に飽きたら捨てられるのね。...今の私みたいに。」

 

 

 

裕子は、そう言うと、ゆっくり立ち上がり、顔を近づけて言った。

 

 

 

「逃げないで、こっちを見なさいよ。...私に図星なことを言われて、返す言葉もないんでしょ?...どうなのよ!?」

 

 

 

すると道雄は裕子を見つめ、その両腕を強く掴むと、言った。

 

 

 

「もう一度、言ってみろ。...さぁ!言えよ!」

 

 

 

すると裕子が口を開く間もなく、道雄は口づけで裕子の口を塞ぎ、強く抱きしめたのであった。

 

 

 

 

裕子は微塵も抵抗せず、むしろ腕を背中に回して道雄を強く抱き寄せた。

 

 

 

熱く激しい口づけをしたまま、二人は、なだれ込むようにベッドへ横になった。

 

 

 

やがて首筋を伝い始めた道雄の唇や舌先を感じながら、裕子は小さく呟いた。

 

 

 

「だから言ったじゃない。...あなたは、私と永遠に別れられないって。...」

 

 

 

その声が聞こえたのか、道雄の愛撫は更に激しさを増していった。

 

 

 

5日後...。

 

 

道雄の新しい恋人・百合絵は、温泉旅行の為、道雄と約束した待ち合わせ場所のレストランにいた。

 

 

 

「遅いなぁ。...遅れる時は必ず電話か、メールをくれる人なのに。...道雄さん、どうしちゃったのかなぁ?」

 

 

 

百合絵は心配そうな顔でそう思いながら、道雄の携帯に、メールを送った。


 

 

その時、とあるホテルの一室...。

 

 

 

激しく愛し合う道雄と裕子の声が、テーブルに置かれた携帯のメール着信音を、かき消していた。。。。



 

 

 

 

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