「たったの4日間なのに、君に会えない日々は長く感じるね。どこで何をしていたの?なんて野暮なことは訊かない。...ただ昨日、俺が電話した時、なぜ焦るような口調で話していたの?」
優二は、可南子の目をじっと見つめながら、穏かな表情でそう訊いた。その時、レモンスカッシュの入ったグラスの氷が融けて微かな音を奏でた。
「分からない。... 別に焦ってなんかいないよ。..優二には、そう聞こえたのかもしれないけれど」
そう答える可南子の瞳は、なぜか優二の視線を嫌がっているかのように細かく動いていた。
「よく、女の勘って言うけれど、男にも男の勘ってものがあるんだぜ?」
何気なくそう言うと、優二はグラスのコカ・コーラをストローで2度回した。
「男の勘?...それって、なんか陰気臭くない?...要は恋人の行動を疑って詮索してるってことでしょ?..今あいつ、何してるんだろ?とか」
可南子は、いかにも嫌で堪らないといった表情を浮かべながら、そう言った。しかし、それは優二の問い掛けから話題を逸らす意図があった。
優二は、そんな可南子の気持ちを感じ取っていた。そして益々、可南子が隠し事をしているという思いを強くした。
「詮索するのは陰気か?...ならば可南子に対して無頓着で無関心な俺のほうがいいのか?」
「話が極端すぎるわ。...無関心なら、その恋は、もう終わってるんじゃない?...私が言いたいのは、もっと恋人を信じたら?ってことよ。」
可南子は、その後にきつい言葉を言おうとしたが、なぜか心がブレーキをかけたのだった。
「もし好きな人がいるなら、俺の目を盗んでコソコソ付き合うような真似だけはするなよ。ハッキリと俺に打ち明けてくれれば....」
そこまで言うと優二は急に視線をテーブルに落とし、言葉を失った。
そんな優二を睨むように見ながら、可南子は言った。
「優二に打ち明けたら?何なの?..潔く私と別れてやる...そう言いたいの?」
可南子の瞳は一層大きく見開き、その視線は優二の瞳を射抜いていた。
優二はグラスを手に取り、コーラを一口啜ると、可南子を見つめ言った。
「ごめん、可南子が浮気なんてする筈ないよな。...変なこと言って悪かった。..ただ、最近なんだか、可南子が遠くへ行ってしまうような気がして仕方ないんだ。...」
優二は急に声を弱め、そう語った。可南子は拍子抜けして目を丸くした。
確かに最近の可南子は仕事が多忙で、優二とすれ違いの日々を送っていた。深夜に優二から電話が掛かってくると、疲れとストレスから八つ当たりをし、一方的に切ってしまうこともあった。
そんな矢先、可南子に突如4日間の出張が入り、優二が気になって可南子の携帯にかけた時、様子がおかしい可南子に疑心を抱いてしまったのだった。
「謝るぐらいなら、初めから疑うようなこと言わないでよ。...でもさっきの続き、聞かせて。...もし私が優二に内緒で他の男と付き合っていたら、そうしたら、なんて言おうとしてたの?...私と別れるの?」
可南子は真面目な表情ながらも、その瞳に妖艶な光を滲ませながら、そう訊いた。
完全に可南子のペースになっていた。。。可南子が主導権を握ったのだ。優二は、まるで年上の女性になだめられる高校生のようであった。
優二は可南子の潤んだ唇に目をやった後、視線を上げて瞳を見つめ、太い声で言った。
「別れる、別れないの前に、俺を取るのか、その男を取るのか、可南子にハッキリしてもらう。...それによって、恋が続くか終わるか、決まる。...」
「うふふっ、優二らしいわ(笑)」
可南子は口に手を当て、微笑みながらそう言った。
「なんだよ!...真面目に答えてるのに」
優二は、そう言いながらも可南子の笑顔に心和んでいた。
理屈や常識では語り尽くせない、優二と可南子だけの愛。。。
それは互いの心にある真実を、時に打ち明け、そして時には己の心に秘めつつ、うまく演じながら愛し続けてゆくことなのだと、可南子は心で感じていた。。。。
その時、可南子の目前にあるレモンスカッシュの中の氷が、再び涼しげな音色を奏でたのだった。。。
懐かしのヒットナンバー
山下達郎 「悲しみのJODY」