ショートストーリー596 | 丸次郎 「ショート・ストーリー」
「人の優しさや人情を利用して、莫大な利益を得ようとするハイエナどもが、この国の中枢で共食いしながらひしめいている。

時には猫なで声で愛想を振りまき、時には罵倒して無実の邪魔者を排除しようとする穢れきったハイエナども。

もちろん、ハイエナにも雄と雌がいる。汚れた獣同士、交尾し悦楽の時を謳歌している。その下で無数の者が苦しみ、あがこうが、ハイエナどもは永遠に我が時代が続くものと信じ、夜な夜な宴を開いている。

ハイエナどもの高慢無知な顔は、日々醜く貧相になっているが、当人たちは気づかない。それは自分が一番であるという濁った慢心の目で鏡を見ているからである。


ハイエナどもは、人生は全て自分の思いどおりに進み、周囲を自分の思いどおりに変えることが出来ると思い込んでいる。


人として当たり前の礼儀作法や思いやり、損得ぬきで相手に共感共鳴する心。。。ハイエナどもは、それらを実利なき物として軽んじ、「お勉強さえ良く出来たらよい。偏差値が高い難関校卒業の学歴を得ることが、最高の価値である」と教えられ、育てられた者が多い。

ハイエナどもは、目に見えない人の心や想いよりも、目に見える点数や金額、地位に異常な関心を示すのである。

ハイエナどもが一般の者に比べ、想像力、および創造力に欠けているのは、その為である。自分達さえ満腹になれば、他の多くの者達が餓死しようが眼中にない。それがハイエナどもの本性である。


ハイエナどもにとって、権力と手を組み、権力と共に歩むことが、収入面、地位、肩書きを維持向上させる一番の近道であり、己の実力を磨かず、血眼になるような労力、努力をせずとも裕福になれる唯一の手段なのである。


長い年月の間、この国の民たちは、そんなごく簡単で稚拙なトリックさえ、知ることが出来ずにいた。。。


それもそうだろう。本来なら社会の木鐸であり、権力の悪事を伝える媒体である筈のテレビ、新聞がその権力と手を組んだ、いわば同じ穴の狢なのだから。。。」

$丸次郎「ショートストーリー」

東京にある大手新聞社で敏腕記者として政治経済の分野を取材してきた迎川が、10年間勤務した新聞社に辞表を叩き付けた日の夜、俺にそう言った。


新宿・ぶらり横丁にある小さな焼き鳥屋で、迎川はビールを立て続けに3杯飲んだあと、空のコップを握りつぶし、裸電球を睨んでいた。


「官僚や政治家、財界トップらと結託し、米国の言うとおり国民から金を巻き上げる悪政を遂行できるよう誘導報道し、巨額の利益を懐に入れているマスコミのクズどもが、テレビの中で、いけしゃあしゃあと正義面して国民を欺いている。。。良心のかけらでも残っていたら、とても出来る芸当じゃないぜ。...奴らは金と引き換えに、マスコミ人として、いいや、人間としての正義と魂を権力に売ってしまったのさ。..」


迎川のその言葉に、俺は返す術もなかった。全くの畑違いを歩んできた俺にとって、迎川の怒りにどう応えてやればいいのか?...俺は右手のコップ酒から手を離し、鳥皮の串を口に運んだ。


「世間から悪だと言われているような奴が、実は善良で正義感あふれる人物だったりするからな。。。つまり、悪だ、悪だと言ってる奴らにとって、邪魔な存在というだけで悪のレッテルを貼られてる。。そんな人物が今まで沢山いたのかもしれね~な。...」


狭い店内。。。嫌でも迎川の話が耳に届いていた店主が、鳥レバーを焼きながらそう呟いた。。。


「ハイエナどもの莫大な利権を守る為に、その体制に抵抗する無実の人間を罪人の如く仕立て上げ、社会から抹殺する。...俺達みたいにウブな国民は、そんなマスコミどもの報道を鵜呑みにして、まんまと引っ掛かり、無実の人間を罪人、悪人だと思いこむ。。。まるで、どこかの独裁国家みたいな捏造、誘導報道が、この国でも行われてきたとはな。...」


俺は、そう言った後、残っていたコップ酒を一気に飲み干し、焼け付くような喉の感触を噛み締めながら隣にいる迎川の靴を見た。

革靴の磨り減った踵が、日々取材に奔走してきた迎川の努力を雄弁に物語っていた。


「お前一人で、巨大な利権組織たちと闘うのは無理がないか?...かといって、いちサラリーマンの俺に何が出来るという訳でもないが」

俺が、なにげなくそう言うと、迎川は黙ったまま焼酎を飲み、やがて優しげに微笑んだ。。。


ささみ明太子を口の中に押し込めるように頬張っている迎川の横顔は、「俺は、まだまだいけるぜ!」と、語っているように見えた。


口の中をゆすぐように焼酎を飲み込むと、迎川は静かな口調で言った。


「今、世界は変わり始めている。..今まで何十年、いや何百年も隠されてきた悪事や策略が、次々に白日の下に晒され始めている。..米国がバックにいようが、悪は、すでに弱体化し消滅の道を辿り始めているよ。...」


すると店主は焼きあがった、ねぎまの皿を差し出しながら呟いた。

「金の損得で結ばれた者たちの絆は、案外もろいもんだ。..このねぎまのように、終わる時も一蓮托生。...悪同士、一気に串刺しかもしれねーな」


店主のその言葉に、迎川と俺は顔を見合わせ頷くと、黙って乾杯をした.....。


大都会の夜空に、珍しくカラスの鳴き声が響いていた。。。。。









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