トモキは、一向に繋がらない携帯を耳に当てながら、そう叫んだ。
「やはり、遠距離恋愛は難しいものなのか。。。」そうつぶやくトモキの脳裏に、微笑みかけるサヤコの顔が浮かんでは、霧にかすむように消えていった。。。
「俺は、以前と変わらずにサヤコのことが大好きだ。。。でも、その思いがサヤコの胸に届いているかなんて、サヤコ本人にしか分からないもんな。。。」
トモキは最近になって、サヤコとの絆に対して、めっきり自信がなくなっていた。
サヤコの仕事は、最近、特に多忙を極めていた。会社では堅実で、アグレッシブな仕事ぶりから、35歳としては異例の管理職に抜擢されているのだった。
「私ねぇ、、、最近仕事が楽しくて仕方がないの!こういうのを生きがい、って言うのかな。。。トモキは、最近どう?」
2週間前の深夜、少し酔った様子のサヤコが言った、このフレーズがトモキの耳から、今も離れなかった。
鳴らし続けた携帯を、トモキは空を見上げながら切った。。。
5分遅れで鳴る昼の時報が、虚しく響き渡る街の中。。。トモキは、一人取り残されたような感覚に包まれた。
「恋人を、いつまでも諦めきれない男なんて、女々しい。。。」そう思っていたトモキだが、今の自分は、まさに諦めきれない男そのものだった。
![$丸次郎「ショートストーリー」](https://stat.ameba.jp/user_images/20100518/20/23234123/ec/b4/j/t02200278_0407051510547730054.jpg?caw=800)
「男も女も星の数ほどいる、、、とは言うけれど、その中で出会うのはごく僅か。そして、その中からお互いに好きになれる相手となると、いったい、どれだけの確率になるのだろう?」
トモキは柄にもなく、そんな理屈っぽいことを思いながら、歩いていた。
「プルルルルルッ~」
その時、トモキの携帯が鳴った。また、いつもの悪友からだろう、と思いながら携帯を取り出してみると、携帯画面にはサヤコの名前が表示されていた。
「え?マジで?!」トモキは、自分の目を疑った。サヤコから連絡が来ることなど、もう有り得ないと諦めかけていたからである。
トモキは、コンビニの手前で立ち止まると、すぐに携帯に出た。
「もしもし、、」
「あっ!トモキ?ごめんね。。。ずっと連絡できなくて。。。ごめんなさい」
電話に出るなり、サヤコは謝り始めた。。。ただ、ひたすらに謝っていた。。。
「あ、うん。。。別にいいよ。。。仕事、忙しかったんだろ?お疲れさん!」
トモキは、出来るだけ優しく明るく、サヤコに語りかけるのだった。
「うん、確かに仕事は忙しいのだけれど、、、でも、それは理由にはならないよね」
そう言うサヤコの声が沈んでいた。その言葉は、トモキが言うには、きつくなる。そして、サヤコが言うには、重くなる言葉であった。
半月の間、連絡もしてこなければ、こちらからの電話にも出ない。。。少なくともトモキには「終った」と、思える恋であった。。。
しかし、今になってサヤコのほうから電話をかけてきたのは、なぜなのか?
サヤコの心に、どんな変化があったのかを、トモキはストレートに訊きたかった。
「別れの電話なら、それでも構わない。。。互いの連絡が途絶え始めて、徐々に、うやむやに消えていくような恋より、ハッキリと言われたほうが、ずっといい。。。」
トモキは、携帯を握り締めながら、そう思っていた。。。。
「で、サヤコは元気なの?ずっと心配だったんだ。。。疲れ果ててしまっていないか?って。。。」
「ありがとぅ。。。私は大丈夫。。。仕事も、コツがつかめてきたし。。。」
二人は、お互いの心の中を深く探らないように、、、という雰囲気の会話で終始した。
それは、今の二人にとって、暗黙の了承のようでもあった。。。
5年前のトモキだったら、きっとサヤコを強く責めていたに違いない。。。しかし今は、サヤコにどんな非があったとしても、それを深く包みこむことが出来るようになっていた。
結局、サヤコの口からは最後まで、別れの言葉は出てこなかった。。。それは、トモキの口から別れの言葉を言わせようとするような、狡猾さや、巧妙さからでもなかった。
「なぁ、サヤコ。。。仕事が、ひと段落したら、教えてくれないかな。。。俺、そっちに会いに行きたいんだ。。。サヤコの好きなテニスの試合、一緒に観に行かないか?」
「うん!分かった。。。今週中には仕事の目途もつくと思うから、連絡するね!。。。楽しみだなぁ!」
ようやくサヤコの声が、活き活きとしてきたのだった。
「それじゃ、サヤコ、またね!、、、電話、、、ありがとう」
「うん!私のほうこそ。。。ありがとぅ。。。」
サヤコが切るのを確認して、トモキは、ゆっくりと携帯を切った。
「恋人であるか、ないか。。。という形よりも、心が繋がっているか、いないか。ということが、何よりも大切な気がする。。。この同じ空の下にサヤコと俺は、いるんだ。。。」
青空を、ゆっくりと流れて行く雲を見つめながら、トモキは、そう思った。。。。
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