☆S☆









「さてと♪…シートベルトした?出発するよ?」



『ぁ…は〜ぃ…(カチ)…お願いします!』





花沢さんの車に乗って、買い物に向かう。


だけど…


どうせ外に出るのなら、家に取りに行く、っていう選択肢もあるような…


…よし。


思い切ってお願いしてみよう…




『…あのっ…花沢さん!』



「ん?なに?」



『…あのですね…着替えなんですけど、できれば家に取りに行きたいな、って…』



「家に?」



『……今月、引っ越しとかで出費がかさんでて…だから、買うのはちょっと…控えたいんです…』





下着だけならまだしも、服までとなると…

3着くらい買って、ホテルのコインランドリーを使って着回すとしても…

…今のオレには少しの出費もイタイんだ…





「なるほどね……え〜っと、じゃあ…家寄ろっか…最寄り駅はどこ?」



『ありがとうございます!えっと…柏原駅の隣りの隣り…』



「………櫛田?」



『あ、です!』



「そうなんだ?……この時間だと…あの辺、ちょっと混むよね…」



『やっぱ無理…ですか?』



「無理ではないけど…ホテルに戻るの、少し遅くなるかもだけど…いい?」



『はい!それは全然!大丈夫です!』





そうして、オレのマンションへ寄ってもらって。


5日分の着替えをカバンに詰め込んで…




『お待たせですっ!』




準備している間、花沢さんには駐車場で待っててもらった。




「……部屋ん中、行きたかったなぁ…せっかく智くんの住んでるとこ、知れたのに…」



『んふふ…それはダメですよぉ…オレの部屋に入れるのは潤くんだけです♪』



「…恋人の特権?」



『です♪』



「ちぇっ…」



『ふふっ…』





そこまでオレ、バカじゃないもん♪

彼氏じゃない人を部屋に入らせるなんて、そんなことしねぇもん♪





「……じゃ、戻るよ?」



『あ、はい!……ぇ?戻る?…花沢さんのは?』



「…待ってる間に、風見さんにお願いした。」



『…え?……え?…風見さんに?』



「うん。」



『えっと……?』




……よく分かんねぇな…

ホテルのGMにお願いしたら買ってくれんの?




「…あ〜…風見さんてね、父の秘書の息子さんなんだ。だから、花沢家によく出入りしてて…まぁ、俺の兄的存在?」



『そうなんですか!』




だからあの時、ルイ様って…




「…ホテルからわりと近くてね、俺ん家。だから風見さんに、着替え持ってきてもらうようにお願いしたんだ。」



『そうだったんだ……』




…あれ?

でも…ホテルから近いなら、自分で取りに行ってもいいんじゃ?

わざわざ頼まなくても…





「あ〜やっぱり混んできたね…行きはすんなり来れたけど…これじゃホテルに着くのは…8時過ぎちゃうね…」





…あ…もしかして…


この後自分の取りに行ってたら、もっと遅くなるかも、って…


そう考えて風見さんに…


…ていうか、そもそも…


風見さんに頼めるなら、花沢さんはホテルの外に出る必要はなかったわけじゃん…


なのに…オレのために…




『花沢さんっ…』



「ん?」



『あの…ごめんなさい…』



「んん?…なにが?」



『や…オレのためにわざわざ…車出してもらって申し訳ないです…』



「ふふ…誘ったのは俺!それに、智くんの役に立ちたかっただけ!だから気にしなくていいって。」



『…けど…』





やっぱなんか申し訳ない…

こんな新人のオレに…

どうしてこんなに親切にしてくれるんだろ…




「……申し訳ない、なんかお礼しなきゃ、って思ってるなら…」




…だよね、お世話になってばっかだし。

何かお礼しないと。





『はい!…何かお礼を…』



「…じゃあさ、ホテルに戻ったら……」




…あ…やべぇ…オレ…変なこと口走ったかもっ…


お礼を口実に…なんか…ヤバいこと…させられたら…




「……夜ご飯…一緒に食べてくれる?」



『…へ?…ごはん?』



「1人で食べるの、寂しいじゃん?…そのあと晩酌も付き合ってくれると嬉しいんだけど…智くん、お酒飲める?」



『あ、はい…ビールくらいなら……』



「良かった♪じゃ、決まりね〜♪」





…晩ご飯、一緒に食べるのがお礼?

そんなんで良かったんだ…




車は…混雑のせいでなかなか進まなくて。

ホテルに戻れたのは、花沢さんの予想通り8時を過ぎていた。


フロントには風見さんがいて…




〈ルイ様!大野様!お帰りなさいませ!〉




すぐに声をかけてくれた。




〈ルイ様のお荷物はお部屋へお運びしております。〉



「ありがとう…助かりました♪」



〈いえ…あと…お夕食ですが、いかがなさいますか?レストランはもう閉店しておりまして…〉



「ルームサービスはまだいける?」



〈はい!そちらは24時間対応いたしておりますので…〉



「良かった…じゃ、部屋からオーダーします♪」



〈かしこまりました。〉



「じゃ、また明日…行こ…智くん…」




お疲れ様でした、の意を込めて、風見さんに会釈して。


先を歩く花沢さんのあとを追いかけた。



オレの部屋の前で、花沢さんは立ち止まった。




「…一緒にオーダーしとくから…何食べたい?」



『あ…え〜っと………カレー…とか?』




…ふと浮かんだものを言ったけど…あるのかな…




「カレーかぁ!いいね、俺もそれにしよっと。料理が来るまでゆっくりしててね。」



『はぁい…』




そしてそれぞれの部屋へ…




『……はぁ…やっと1人きりだ……』




ポスンと、そのままベッドにダイブした。


そしてすぐに電話をかける…


やっと声が聴ける…




プルルっ……

【…はいは〜いっ!】



『んはっ…出るの早っ…』




1回目のコールの途中で…


手に持って待ってたのかな…///


8時過ぎてるもんね…


まだかな、まだかな、って…


ソワソワしながら待っててくれたのかな…




【お疲れさま!】




潤くんの声だ…




『お疲れさま……ごめんね?待ってた?』



【ん?…ん〜…5時くらいから待ってた…】



『そんな前から?……ごめんなさい…いっぱい待たせちゃって…』



【仕事…忙しかった?】



『…ぅん…まぁ……色々あって…大変だった…』




ショーが終わるまで…今週中はホテルにカンヅメって言ってたほうが良いよね…

明日帰ってきても会えないよ、って…




【…今何してんの?】



『今〜…ベッドでゴロゴロしてる!潤くんは?』



【俺も♪シャワー浴びたし、ご飯も食べたし。あとは寝るだけ!】



『そっかぁ……することなくて暇でしょ?』



【そうだね。退屈だね。…智がいないから余計にね。退屈だし……寂しいよ…】



『……ぅん…///そっか…寂しいのか…///』



【…今すっごい照れてるでしょ…】



『なんで分かった!?』



【…ふふ…当たり?頭の中で…智の顔を思い浮かべながら話してるから……想像の智は照れてるもん。】



『…なんかそれ…恥ぃな…見透かされてるみたいで…』



【智のことなら何でもお見通しだ!】



『んふふ…そぉなの?……じゃあ、今、オレが思ってることも?分かんの?』



【…そんなの簡単だよ。……会いたい!だろ?】



『……///…それは…潤くんが、でしょ?』



【ふふ…バレた♪そうだよ、俺が、だよ。…でも智もでしょ?】



『………ぅん///』



【…明日帰るからさ。すぐ会えるよ。】




…会えないんだよ、すぐには…




『それがさ、潤くん…オレ……』




…ピンポーン…

あ…ルームサービス?



「…智く〜ん?カレー持ってきたよ〜?」




花沢さんだっ…




【…ん?どうした?】



『ごめん、潤くん、今からご飯なんだ!花沢さんがルームサービス持ってきてくれたみたい…食べ終わったらまた電話するね?…じゃあまたあとで!』




プツッと通話終了を押して、ドアを開ける…




「お待たせ〜」



『わざわざすいません…ありがとうございます!』



「この香り、食欲をそそるね。早く食べよう♪」



『はい!』




この時オレはまだ気付いていなかった。

…オレのスマホも、スカスカに腹を空かせてることに…









家には上がらせないけど、
ホテルの部屋には簡単に招き入れちゃう智くん…
ツメが甘いっ(。-∀-)