☆J☆









その日の業務を終え、帰宅して。


ソファでほっと一息ついている。


…冷静になって考えてみた……


個人のスマホから、あの子に…お客様に電話をかけたこと…本当はコンプライアンス違反なんだ。


でも、電話をかけずにはいられなかった…



恥ずかしそうに、

“日曜日、松本さんに会いに来ます”

…って……



その言葉を聞いて、また胸が高鳴った。


すぐに声が聞きたくなって…


仕事をほっぽり出して、自分のスマホから…


必然的に、
俺の番号を教えられることにもなるし…


けど、
これもコンプライアンス違反なんだけどね。


違反してまで、
プライベート用の番号を教える意味…


分かってくれたかな…


何かあったら連絡して?…とは言ったけど、
何もなくてもかけてきてほしい…


…あなたは気付いてくれたかな…



俺も、あなたに会うこと、楽しみにしてる。



…この言葉の意味……


あなたが、俺と同じ想いなら…


気付いてくれたはず。





\\…♪♬*゜…♪♬*゜…♪♬*゜…//





「……!!」




突然のコール音に胸が高鳴る…


もしかして……もしかしてっ!!




「…っ…ビンゴっ……」




…確信した。


あなたも、俺と同じ想いだってこと…



スマホの画面には“大野様”の文字……



高鳴る鼓動を抑えつつ、タップする…




「…はい…松本です…」



『……ぁ…ぁのっ…大野ですっ…けどっ…』




声から、あなたの緊張が伝わってくる…

今はまだ、スタッフでいよう。




「はい…大野様……どうかされました?」



『…業務時間外にすみません…訊いておきたいことがあったんで……』



「構いませんよ!なんでしょう??」




…俺のことか、それとも契約のことか…




『…ぁの、日曜日って…
なんかいる物ありますか?』



「お!その感じだと、どの部屋にするかお決めになられたんですね?」



『ぁ、はい…決めました…それであの…契約する時に必要なもの、訊いておきたくて…』




契約のことだった…

それなら…
このままスタッフとして対応しなきゃ。




「…かしこまりました…では、まず身分証明書、住民票の写し、それから……」




俺は、契約に何が必要か、伝えた。




『…分かりましたぁ……明日役所に行って取ってこようっと♪
…ありがとうございました!』



「いえいえ。これも仕事のうちですから♪」




…さぁ、契約の話は終わったよ?

…わざわざ、理由を考えてかけてきてくれたんじゃないの?

必要書類なんて、日曜日に聞いて、また後日提出でもいいんだから…




『……ついでにもう1つ…
…訊いてもいいですか?』




ほらっ!

ついでの方が本命なんじゃないの?





「いいですよ?…なんでしょう?」



『……松本さん…何階に住んでます?』



「…へ?」




いきなりそれ?

…っていうか…
そんなの聞いたところでどうなんの?

でも…答えないわけにはいかない気がして…




「…えっと…8階…ですけど?」



『…わぁぉ…最上階か……』



「え?…何……どういうこと??」



『…ちなみに…ハチマル何号室ですか?』



「……3。…だけど……」



『……803……と。」




\\…♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜//




教えた途端に、鳴り出すチャイム…




「……え…誰か来た…?こんな時間に?」




混乱気味でインターフォンを見てみる…




「…!?
…えっ……嘘だろっ……なんでっ……」




慌てて通話ボタンを押す…と同時にオートロックを解除した…




「…とっ…とりあえず…中へっ…」




自分のスマホから今のセリフが聞こえてくる…




「…どういうことっ…?」




混乱気味の頭は益々混乱……


なんであなたが俺のマンションに??


…てか、なんで分かった??


…それよりもっ!!


これからあの子がこの部屋にっ……


どうしよっ…


見られてまずい物は……ないっ!


…いやっ…ちょっと部屋散らかってる…


このまま入れていいものか……





\\…ピン…ポーン……//




来たっ…


もう考えてる暇はないっ…!




…カチャ……




ドアを開けると、ギュッとシャツの裾を掴んで立ってるあなたがいた…


そして…




『……ごめんなさい…』




第一声がそれだった…




『……こんな…ストーカーみたいなこと……オレ…やっぱ帰りますっ…』




そう言って、
エレベーターに向かって走り出した…




「…待って待って待ってっ!!」




どうしてここが分かった?

どうしてここに来てくれた?

大事な理由があるんだろ?

それを聞くまでは帰さないっ!!


追いかけて、腕を掴んで…




『わっ……ぇ……ぁ、あのっ……』




引っ張り歩いた。


そして、家の中へ……



……パタン…




「……ふぅ…」




小さく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。




「……驚きました…なんで分かったんです?…私のマンション…」



『……さ、三角屋根のマンションなんて…
この辺にはここしかなかったから…』




三角屋根…っていうヒントだけで、ここを探し当てたのか…

そうまでしてここに来た理由は…?





「……それで……何をしに来たの?」



『……っ…それはっ……』



「……俺に会いたくなった?」





…これしかなくない?





『…っ///』




真っ赤になって俯いた。

シャツの裾を握りしめて…

そして、コクンと小さく頷いた。





「…ふふっ///」




そっか…

そうなのか///

嬉しくて、思わずニヤける…





『…すみませんっ…ほんとっ……押しかけちゃって…オレっ……帰りますっ!』





…ここに来てくれた理由は聞けたけど!

聞けたからこそ……





「……帰さないよ?」




ドアのレバーにのせられたあなたの手に、
そっと俺の手を重ねる…


すんなり帰すわけないじゃん。


もう今しかないじゃん。


気持ち、伝えるの。


もう返事も分かってるけど…


ちゃんと伝えたい。




「…せっかく来てくれたんだからさ。…コーヒーでも飲んでく?」




まずはゆっくり落ち着いてからだね。




『…ぇ……っと……いいんですか?』



「もちろん♪…さ、どうぞ♪」





…さりげなく、あなたの腰に手を当てて…

ソファまでエスコート♪




「ちょっと待ってて?」




飛びっきりのブレンドコーヒーにしよう♪


俺は、
いつものようにサイフォンを準備した。