☆J☆








次に内覧に訪れた本日2件目の物件は、
これまで見てきた物件の中で最も狭くて。




『……ここは…ないかな……ごめんなさい、せっかく連れて来てもらったのに…』





直感的に駄目だったんだろう、入ってざっと見回して、即答だった。





「いえいえ!インスピレーションも大事ですからね!そういうことも多々ありますよ。」




『……はぃ…』





なかなか部屋が決められなくて、
少し落ち込んでいるようにもみえる…


…あと1件…

次のマンション、ピッタリハマっていただけるといいんだけど…





「…次は…ここから少し離れてるんです。移動で20分くらいかかると思います。…だいぶお疲れじゃないです?車の中でゆっくり休まれててくださいね?」





また車に乗り込んで、最後の物件へ向かう。





『…松本さんは…疲れてないんですか?』



「はい!まだまだ元気ですよ♪」





今日も俺のことを気遣ってくれる。

優しいなぁ…



…大丈夫。疲れるわけないよ。


だって…仕事とはいえ、あなたと一緒にいられるんだから…


…あと1件…内覧が終われば……





『……松本さんって……』



「…はい?…なんですか?」





最後の物件に向かう車の中…

徐ろにあなたが口を開いた。





『……ぃや…なんでもない…ですっ…』



「え?……ふふっ…なんですか?気になるんですけど…」




…ちょうど赤信号だ…

車を止めて、あなたの顔を覗き見る…



…パチっ///



あ…思いっきり目が合った…




『……ぁ…///』





そして思いっきり逸らされた……




「……何か…訊いておきたいことでもありますか?遠慮なく仰ってくださっていいんですよ?」



『……ぇと……』



「…ん?」



『………///』





…なんか…すごく照れてる?

え…///なんで…そんな照れてんの…??





「…ふふっ///どうされたんです??」



『いやっ……なんでもないっすっ///』





…いや、絶対なんかあるでしょう?

問い詰めたいところだけど……

…信号変わっちゃった。





「…動きますよ〜…」



『…はぃ……』





その後も、あなたは何も発しないまま…

目的地に着いてしまった。


…視線は、痛いほど感じてたんだけどな…


何か言いたいこと…訊きたいことがあるみたいなんだけど…


…帰りには教えてくれるかなぁ…





「さぁ、いよいよラストです!」



『です!』



「実はここ、私のイチオシ物件なんです♪」



『…え?……そうなんですか?』



「はい!間取り、部屋の広さ、日当たり、スーパーも徒歩圏内、あと、賃料も…すべてにおいて、イチオシです!」



『…へぇ……レインボービルディング……』



「こちらの3階になります。」




オートロック解除…

入ってすぐエレベーター。

そして3階の角部屋へご案内する。




『わ…ドアの色が…1階と違う…』



「そうなんです。各階、ドアの色が違うんです。建物の名前にちなんでて…1階は紫、2階は藍、3階は青……」



『…それぞれの階に、
虹の色が塗ってあんの?』



「正解です♪」



『わはっ♪すげぇ♪おもしれぇ♪』




無邪気に楽しんでる姿がまた…可愛い…///




「さ、中へどうぞ?」



『ぁ、はぁい!』




玄関のドアを開ける。

木の香りがふわり、漂う。




『おぉ!オシャレ〜♪
…木の匂い、すご〜い…』



「リフォームしたばかりなので…」




自然の中にいるような感覚を味わっていただきたくて、リフォームする時、俺が提案した物件なんだ。


壁や床、天井にも、
ふんだんに木を使っている。





『あ〜この香り、落ち着きますね〜♪』





良かった!

いい感触だ!



短い廊下を抜けると、
ダイニングキッチンがあって、
その先にリビング。

その隣りに1部屋。

…と、もう1つ。




『…ここは?』



「フリースペースです。約4帖あります。書斎とかウォークインクローゼットとか…様々な用途でお使いいただけます。」



『…ほぇぇ……オレの作業部屋にピッタリだな…』





…今までにはなかった反応…

ここで生活してるイメージを持ち始めている…

…これはいいかもしれない!





「間取り的には、1SLDKですね。角部屋ですので、日当たりは良好かと。」



『…お風呂って…どこですか?』



「こちらです。」




水回りもくまなくチェック。




『…お風呂、わりと広い…トイレは別なんだ…どっちでもいいって言ったけど、やっぱ別だと有難いな。』





そしてまたリビングに戻り、
隣りの部屋を覗き…

バルコニーから外を眺めてる。


しばらくそこで佇んで…


色々、考えてるのかな。


今まで見てきた部屋たちと、この部屋と。


天秤にかけて、
決めようとしてくれてるのかな。




「…大野様…
余談を一つ…よろしいですか?」




バルコニーに立つあなたの後ろから、
遠くを指差す…





『…え…なに??』



「…私の住んでるとこ…あの三角屋根のマンションなんです。」



『え?……あそこ?松本さんち?
……こっから見えるんだ…』



「です♪……すみません、どうでもいい余談でした。」




そのマンションを見つめて動かない…




『……ぁの…松本さん…?』




…決まった…かな?




「はい!」



『……今日…決めなきゃ…ダメですか?』





…まだ…迷ってるんだね。

この部屋も、何かが足りなかったのか…




「いいえ!ゆっくり検討されてからで大丈夫ですよ!」



『…日曜日の午前中…予定、まだ空いてますか?』



「あ、はい!…空いてます!」



『その時までに…決めておきます…』



「承知いたしました。…ここは保留…ということで。」



『…はい……すみません……』



「いえいえ!」





…俺としては…

あなたに会える日が1日増えたから…
嬉しいんだけどね♪


そして今日の内覧の後に、
想いを伝えると決めていたことだけど…


それはやめたほうがいい気がする。


…決してひよったわけではないよ?


今日伝えたら…


日曜日、
来てくれなくなっちゃうかもしれないから…





「…それでは…今日はもう引き上げましょう…か?」



『………。』





あれ?

返事がない…





「……大野様?」



『……あ…はい……帰ります…』




どうされたんだろう…

表情が暗くなった気がする…




店までの帰り道も、ずっと暗いまま…

話しかけたら答えてはくれるけど、あまり会話が続かない…


…だけど、
横目でも分かるくらい、視線は感じてた。


でも、不意に横を向いて目を合わすと、慌てて逸らすんだ。


そして、
もじもじと照れたような仕草をみせる…


だから、
無言で俺を見つめるあなたに、
俺は、ある希望を抱いた。


もしかして……





「…お疲れ様でした!」



『…ありがとうございました。運転、お疲れ様でした…』



「こちらこそ、ありがとうございました。」





シートベルトを外して、車の外へ。

トートバッグを肩に掛けたあなたを見送る。




「それではまた…日曜日に。ご来店お待ちしております♪」



『…はぃ…日曜日にまた……松本さんに……ぁ、会いに来ます///』



「……え?」



『…っ///……じゃあっ……失礼しますっ!』




聞き間違いじゃ…ないよな??


…俺に…会いに来る…って…言ったよね??





「……っ///」




これはっ…もしかしてもしかするかもっ///