元妻の不倫相手を引き連れ、相手指定のファミレスに着くと、僕は不倫相手の前に弁護士に作成してもらった通知書と示談書を広げ、一言だけ告げる…


「熟読頂いた上で、示談書にサイン頂けるか、熟考の上でこの場で具体的な回答をお願い、出来ますかね?」


不倫相手は、


「いいよ、じゃあ見せてよ!その、探偵が撮った証拠やらを…」と一旦は息巻いて来た…


僕は、一蹴する。


「その必要はないですね…弁護士の先生にも裁判になるまでは出すなって言われてるんで…」


不倫相手は額の汗を拭いながら、なおもやり取りは続く。


「分かった…分かったよ!慰謝料、満額で払うからさ…今すぐ即金で用意するからさ…でも、この示談書にはサイン出来ない…」


「ふーん…何故でしょうか?」


「だってさ…俺がこれにサインしたらさ…俺たち2人の間に不貞があったってことを認めた事になるじゃん?」


「ええ。そこに書いてある通りですよ。」


「そうしたら、それを踏まえて今度は〇〇(元妻の名前)にあんたは法的制裁を加えるんだろ?」


「それは、あなたには関係ない事でしょうよ…」


「俺は、それが忍び無い…だから、サインは出来ない。でも慰謝料は全額、今すぐ払うよ…今から一緒に銀行行ってもいい…」


「カッコつけてんじゃねえよ!」


僕はそう怒鳴りたい衝動を必死に堪えつつ、不倫相手の前に広げた書類をゆっくりと片付けながら、静かに言い放つ。


「なるほど…ご意向は理解しました。では、今日のところは手ぶらで帰る事にします。


…後日、裁判所でお会いしましょう…笑」


すると、不倫相手は僕のジャケットの裾を掴みながら、


「分かった!書くよ!書くからさ…」と縋り付く。


その後は、もう観念したのか、シュンとした表情で素直に示談書にサインするし店を出ると、憔悴し切った表情で店を出て、そのままトボトボと自宅方面へ歩いて帰って行った。


慰謝料は、翌日には全額振り込まれていた。


これで、僕側の完全勝利で僕らの離婚劇は幕を閉じることになる。僕は、この時はそれを疑っていなかった。


ところが、自分たちの不貞が露見し、不倫相手が慰謝料を支払った事を知った元妻は、後日、あろうことが弁護士を通して裁判所に離婚調停を申し立てて来たのだ…


しかも、ありもしない僕のDVやモラハラをでっち上げて…苦し紛れの最後の抵抗か?


裁判所からの調停出廷通知を受け取った僕は、余りの怒りと悲しみに、許すか、許さないか決めあぐねていた元妻とも、もう「戦う」との意思を固める他なかった…


でも、それが長い戦いの始まりだとは、この時点では、まだ考え及ぶ由もなかった。


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