・本堂

「(中尊寺)入口からここまで、結構距離があるだろ。

 坂だしね。一休みに物見台が必要な事も分かるよ。

 右に見えたけど、スルーして来たのが地蔵堂だ、

 左に見えるのが薬師堂、右に見えて来たのが本堂表門だ。

  あの表門は伊達(だて)騒動(そうどう)(ちょう)本人(ほんにん)、一関藩主だった伊達宗(だてむね)(かつ)(伊達政宗の十男)の屋敷に有った物をここに移築したと伝わっている」

「伊達騒動って?、聞いたことあるけど中身は知らない」

「話せば長くなるからカット。

  佐々木も原点は一関に有ると知ったから、仙台に帰って何時にか俺の知っている所で話すよ(話して聞かせるよ)。

(伊達騒動は)世継ぎ問題に絡む凡そ四〇〇年も前の事件(寛文十一年、一六七一年)なんだ」

 頷く佐々木だ。

 階段周りは何時に来ても綺麗に整備されてある。

「年に、何人がここに来るのかね」

「さぁー?、外国人も増えているだろう。

 世界遺産だからね」

 そう言えば、車いすが必要な人って、どうするんだろう。門を潜ると、杉や松に囲まれた境内は広い。

「東北の天台宗別格総本山。

 御本尊は釈迦如来だ」

 覚えている所で佐々木に説明した。

「この御堂だけでなく、山全体を総称して中尊寺と言うんだ。

 御本尊の両脇の(とう)(ろう)宗祖(しゅうそ)最澄(さいちょう)以来、一三〇〇年になる?

 ズーッと灯り続けている。絶やさないのだそうだ」

 千田が説明を追加した。それを聞きながら、空海(くうかい)真言(しんごん)(宗)、高野山(こうやさん)。最澄、天台(てんだい)(宗)、比叡山(ひえいざん)。受験勉強のための高校時代の丸暗記を思い出した。

 台座を含めて高さ五メートルは有るだろう。御本尊に両手を合わせると、学部卒業((あと)三年)も国家試験合格も臨床研修も、無事に終えることが出来るようにとお祈りした。

 今年度(四年生)から臨床実習が可能になったのだ。一段と厳しい教授と医療の現実をより知ることになるのだろう。

「御朱印を貰うのに、場所は何処?」

「えっ、そんな趣味有るの?」

 言いながら見渡すと、左手に御朱印授与所と標識が出ていた。行列が出来ている。

 付き合うことにして一緒に列に並んだ。何度か謝る言葉を口にした佐々木だったが、本堂のあの門、あそこまで来るに車いすを必要とする人は如何するんだろう、この境内に入るにも車いすを使用する人のためにスロープが有った方が良いのにねと言う。

 二、三十分もして、やっと順番が来た。

「五百円になります」

「有難う御座います。

 車いすを必要とする方は、この本堂に来るまでどの様にされているのですか」

 千田も俺も答える前に、目の前のお坊さんに質問した佐々木だ。

 落ち着いた受け応えだった。社務所の方に事前に電話を頂ければ福祉タクシーを手配します、月見坂を車で上って来れます、とお坊さんだ。

 だが、佐々木はその先を言った。

「あの門を潜るに、スロープの設置を考えた方が良いですよ。

 土地は有るのですから、工夫することを考えて頂きたいと思います」

 思っても居なかった発言に俺の方が驚いた。

 佐々木は、御朱印帳の筆記のお礼を言うと、お坊さんの答えを待たずに歩きだした。

 既に何処かにスロープが設置されてあるのかも知れない。だけど、見渡しても見当たらない。千田は(もく)したままだったけど、確かにその通りだなと思う。

 阿弥陀堂(正徳(せいとく)五年(一七一五年再建)に行った。

 見て元の参道に戻ると、程無く反対側に金色堂の標識が見えてきた。