第二十九章 大槻玄沢を語る
一 待ち合わせ
「お早う、いい天気だね」
「ああ、見学にも散策にも、もって来いだ。
(来る)途中、電車の中から新芽の木々や草花が見えたよ。
青々とした空を見ると、
ゴールデンウイークだー、と思ったね」
「佐々木も、そろそろ着く頃だ」
「うん。
俺も、一関(市」の中は、中尊寺と毛越寺ぐらいしか知らないね。
小学生の頃、遠足と、親に連れられて磐井川の花火(大会)を見に来たぐらいの物だ」
「(通った)高校は?」。
「地元さ。(県立)大東高校だ。
休みの所為か在来線はガラガラだったよ。
通勤帯になるのだろうけど、今日は休日だろ。一関に出る学生(通う高校生)も見なかった」
「お早う」
「おう、来た、来た。
分った?」
「新幹線の番線、あんなに離れているとは思わなかったよ。
(新幹線専用の)改札通って、ここの改札に来るにも四、五分かな?」
「在来線の改札(口)とは別だからね。
だけど、ごちゃごちゃした仙台(駅)よりはましかもな」
「(新幹線専用の)改札を出たら右に曲がれ、五十メートルも歩いて階段が左に見えたらそれを降りろ。直ぐに在来線の改札口が出てくる。
聞いていた通りだったよ。だけど(改札に)二人の姿が無くて、本当にここで良いのかと少し心配になったよ」
「ごめん。駅舎から出ている(出て待つ)と、言わなかったな」
「あの銅像、誰。大槻三賢人とあるね。
若しかして、大槻玄沢、大槻平泉、大槻文彦?」
「さすが、佐々木だ」
「でも、平泉では無いよ。
大槻玄沢の親子三代だ。玄沢、子の磐渓、そして玄沢の孫になる大槻文彦だ。
磐渓に合わせるなら、玄沢は磐水だ。だけど文彦に「磐」の字の付く号は無い。
三人の名で言えば、大槻茂質、大槻清崇、大槻清復だけど、世間に知れている名を優先したん(の)だろうね。
(銅像に)無いけど、平泉は大槻清準、玄沢から見て従弟に成るね」
「ハハハ、早速、小野寺の講釈だね。
でも、今日から二日三日、平泉文化を知ろう、大槻玄沢を知ろうと話し合って(三人が)揃ったんだから、小野寺に期待しているよ」
「うん、生まれ育った地元だからね。三日(間)とも案内は任せろ。
今日は、真っ直ぐ平泉に行くよ、世界遺産だからね。
平泉文化遺産センターと中尊寺、金色堂を観て午前中は終わりだろう。
後ろの喫茶店で、今日の(予定の)打ち合わせをしよう。コーヒーは?」
「うん、(今朝は)まだ飲んでない。新幹線は仙台から三十分だろ。
あっという間に到着だからね。飲む暇なんて無いよ」
「ハハハ、そうだね。
棚に荷物を置いて、上着を脱いで落ち着いたと思ったら到着だからね」
「車窓を見ていたよ。トンネルが多かったね。
トンネルを抜けて北に来るほど山が多かった。
田畑が見えたけど、段々にその面積が小さくなっていく」
「良く観察しているね。流石に佐々木だ。外科を選択したお前らしいよ。
岩手は小さな山、また山だ。
田畑はその間あいだに有る。
今、丁度八時。食事して、ここを八時半には発とう。
親父の車を借りて来た」
右に岩淵旅館と居酒屋との間に見える市営駐車場の入り口を指さした。
左肩を振り向けば、喫茶店、「出会い」の看板だ。その右先にレンタルカー取扱店の看板も出ている。離れて交番も見えた。
「自家製のパンを売っている喫茶店だ。入って、今日の打ち合わせをしよう」
駅前広場の側からも駅舎の中の待合の場からも入れる仕組みだ。ドアを開けた途端に、焼きたてのパンの良い匂いがしてくる。
テーブル席が四つ。外を見るようにも、レジの横並びにもカウンター席がある。打ち合わせするには三人が顔を突き合わせることが出来るテーブル席が良い。
だが、ゴールデンウイークも真ん中に当たる今日は既に満席だ。大きな手荷物を横に置く客が目立つ。後にコインロッカーを探すのか、いや、荷物を傍に置いて居るのだから一関を発ち、これから他所に行くのだろうか。
電車の時刻待ちか。いや、今日に(藤原祭りの)メーンイベントの義経行列が有ると思いながら店内を見渡すと、目の前の叔母さん達四人連れが、空きます、と声をかけて呉れた。
席を確保して、陳列棚を見る。三人が三様にパンを選んでレジで会計を済ます。佐々木と俺はコーヒーも注文したが、千田は牛乳だ。
今朝に(生家で)食事の後、コーヒーを飲んで来たと言う。それで、カレーパン一個にした理由も分かった。
佐々木は、はちみつチーズパンに、ハムエッグロール、ベーコンにレタスとトマトと卵の挟まれた大きめのサンドイッチだ。見るだけでも食欲旺盛だなと思う。手術の立ち会いはタフだからね、と聞かずも言った。
俺はハムとレタス、卵の入ったサンドイッチに、ソーセージ一本丸ごと挟んであるパンを選んだ。
佐々木の口が止まらない。俺も千田も最後の一口を飲むに、佐々木は食べるのも飲むのも終えた。
外科は、何時に手術の用が出てくるか分からないからね。食べられる時に食べる、早飯早糞は得意だと語る。この場で早糞は余計だ。
[付記]:倅が安曇野から来たので、第28章、多事多難・37を修正して御座います。アップロード出来なかった「工藤源四郎の姻族関係図」を加えております。下記の図になります。

