十六 感謝の念

 春爛漫とも言うべきか、若葉が目に染みる。環海異聞の奏上が無事に終わったとて見上げる空は何処までも青い。

 春の陽気の空気を思いっきり吸い込んだ。(上屋敷の)御門を出たばかりにこんな気持ちになったのは何時(いつ)の事だろう。

これでお役目の一つが本当に終わったなと思いもする。最後に、大義であった、の御屋形様の御言葉を頂きもした。お側に控えて居た堀田様も平賀様も頷いていた。

 開放感がこんなにも嬉しい物か。漂流民四人が顔だけでなく、昌永、右仲にこの一年、特にお世話になった間殿(間重富)の顔も、(おし)えも思い出される。

 ブラジリ(ブラジル)のエカテリナは南緯十五度、行った頃が夏ともあれば物凄く暑く、湿度も高かったはずだと言った。漂流民が日に何度も頭から水を被ったは本当でしょうとも言った。

 その先、南アメリカも先っぽ(ホーン岬)は南緯五十五度。南の(きょく)にも近ければ年間を通して氷の山を見ることが出来ると聞いた時には驚きもした。

 漂流民がオホーツクに至るに、乗った船が梶取りを誤ったとて氷山を見たと間殿に言えば、北も南も地球の果ては一年中、氷山を見ることが出来るのだと言う。

 マルケサスは良くに分からなかったが、地図上に長崎奉行所の朱線はボリビアに有り、そこなれば赤道にも近くブラジルのエカテリナより更に暑かったろうと言う、

 大海原にあるサンベイツケは、ヨーロッパの作成した地図にはサンドイッチ島とある。北緯二十度辺りで、地理書が教えるには季節は夏と冬しかないのだと言う。されど在る所からして一年を通して温暖であろうとの事だった。面白くも思える教えだった。

 我が家の玄関に続く柴垣を回ると、末吉が庭先の掃き掃除をしていた。埃が立つとて先に水をまいたらしい。使用人と雖も、ここにも感謝すべき御仁が居たと思う。漂流民の毎日の食事作りと、そして凡そ丸一年、何かと吾等の世話もした末吉とお京だ。

「途中、団子を買って来た。

 タホ(妻)とお京に頼んで、皆でお茶にしよう。

 一段落したら、縁側に回るが良い」

 声を聞いて知ったか、六がすっ飛んできた。六の身体を持ち上げるに、己自身、このような時をすっかり忘れていたかとも思う。

小父さんが来てるよと言うに、小父さんとは誰かと聞けば民治だった。

 

[付記]:人気記事にランクインしたあなたの記事ですとして、アメーバ事務局から送られてくる情報に小生自身が一番ビックリしています。 先週の月曜から金曜までのブログ投稿分が全てランクイン、67位が最高位との連絡です。

 しかも、読者情報を開けて見ると、20代が初めて読者の数の内に入っていました。

 有難う御座います。執筆意欲がまたまた湧きました。読んで下さっている皆様に改めて御礼申し上げます。