十四 オロシヤは軍事大国
「して、行った先々の時と場所の気候風土等を知りたいとは‥如何なる故かの?」
「はい。帰国した四人は単にオロシヤがカムチャッカから帰国したのでは御座いませんでした。
漂流民が乗ったと語るレザノフの軍船は、何と、地球上の五大洲(ここではアジア、ヨーロッパ、アフリカ、南アメリカ、北アメリカ)を巡って、世界を一周してからにカムチャッカに寄ったのでした。
そこで水や食料等を補充した上で大洋を南に下り、目指すは出島とて長崎に至ったのです。
漂流民は長崎に至る前、レザノフと共に世界を一周していたので御座います」
「世界一周?」
「はい。遭難した彼等は、恐らくは北アメリカ州の小さな島に流れ着いたのです。
そこから西に、世話する者の船でオロシヤのオホーツクに至り、オロシヤの広い国土を八、九年かけて東から西に横断しております。
オロシヤの国の西の外れと言うのでしょうか、王様の住むぺテルブルグと言う町からカナスダと言う港に出て、そこから、ヨーロッパ州のデンマークと言う国、イギリスと言う国に至り、そこの港を出ると次にアフリカ州に行ったのでした。
アフリカもカナリアと言う国と言うのか、島々で過ごし、それから更に海をわたり、赤道を超えて南アメリカ州のブラジリア(ブラジル)に行っているのです」。
「セキドウ?」
「はい。赤道は地球の上にある土地を北にも南にも、また東西にも分ける基準になる物、緯度がゼロの地点とお聞きしております」
「イド?。増々分からんの」
「はい。吾とて専門に非ざればそれ以上にご説明が出来ません。
ましてや、四人が行った先々の地の気候風土を、語るをそのままに受け入れて良い物か如何かそれすら分りかねるのです。
それ故、天文方の知己を教え頂く必要が御座います。
四人は、ブラジルもサンタマリアとか聞くところで傷んだ船の修理等のため長く逗留したと聞いております」
「聞いても居れば、それだけで大いに興味が湧きもする」
「で、御座いましょう」
「待て、待て、地球儀がある。持って来させよう」
控えていた若者の名を知らぬ。侯の言う通りに何処ぞから地球儀を手にして来た。彼にとっても物珍しい物なのだろう。ジロジロと見ながらに侯と吾の間に置きもした。
「三人から、寄った国や島の気候風土等を聞かせて貰いました。
されど、その国や島が先ずは地球上の何処に有るのか。聞く吾等とて地球儀や地球絵図で確認した処で御座います。
その位置が分かったとして、寄ったその頃のその土地の気候風土が如何なるものか、彼等(漂流民)に聞きもしまたが聞く方にある吾等、誰も確証を以って承知することが出来ません。
故に、天文方の間殿のお力をお借りしたいのです」
頷く堀田様だ。目は地球儀にある。
「近頃、蝦夷地が開拓を如何にせんとの話ばかりに非ず。
オロシヤの王様が、レザノフが報告(交易を認めない)を聞けばオロシヤはこの日本に攻めて来ると(御上、幕府が)中でも話になることも有る。
オロシヤの軍事力は如何なものかの?、聞いて居るか?・・・」
「はい。風聞にもオロシヤが攻めてくるとお聞きしても御座います。
漂流民からは鉄砲よりも大砲、火薬が増々大事になっているようにお聞きしました。
戦が船(軍船)とて、この日本が比較できるほどの事では無いと言っております。
専用に造られた船(軍船)は幾艘にも及び、その船一艘毎に幾つもの大砲を抱え、乗り込む兵隊が千人にもなる。視界の効く操舵室には地図と天球儀、地球儀が有ったと見て来たままを語っております。
兵隊一人一人は専用の衣服に身を包み、日頃から戦の訓練をして鍛えられているとの事でした。
また船の中で馬や牛に豚など家畜を飼い、葉物などの野菜も育てていると聞いて驚きもしました。此の日本にそのような船は一艘とて御座いませんでしょう。
出島のカピタン等が言うように、オロシヤはヨーロッパの国々に負けず海洋進出を図る、まさに軍事力を備えた大国と思わざるを得ません」
何ぞ思案する侯だ。吾はお願いしたき事を口にするに増々良い機会だと思いが行く。