四 上陸して
話が長くもなったかと、珍しく右仲が津太夫の湯飲みを覗いてお茶を注ぎ足した。
ペコリと頭を下げ、喉を潤した津太夫が続けた、
「後に聞いで分かりもすたのですが、
レザノフ様等が上陸するに乗りもすた船は佐賀藩のお殿様も乗る御召船(龍王丸と記録されている)どの事ですた。
何故に佐賀藩の船がど聞げば、長崎の港の管理は福岡藩ど佐賀藩のお役目になっていで、こん(の)時の当番が佐賀藩に在った、海上を見張る、異国がらお国を守るためのお役目だと言うのっしゃ(です)。
俺達はナデジダ号に取り付けてあるバッテイラと名の有る小舟で上陸すますた。
その日のうず(ち)に、梅ケ崎の仮屋にあの双頭の鷲のオロシヤの国旗が翻りますた。俺達が見でも青空に鷲(の絵)は良く似合うど思いますたよ。
(参考図―早稲田大学図書館所蔵本、環海異聞に載る「梅ケ崎仮屋の双頭の鷲」)
んだども(しかし)、上陸すてごそ分がったことですたが、これが、日本の、お国の対応がど俺でさえ情げなぐなりますたよ。
梅ケ崎の仮屋は海鼠や鮑などの海産物を干物にすて唐(中国)等に送る(輸出する)俵物を作る蔵、土蔵が並ぶ一角に急遽造られだ物ですた。
干物の独特の匂いがすずう(しじゅう)漂ってくるす(し)、第一、全くもって手狭な造りですた。レザノフ様は六畳一間にもう一つの小部屋が与えられだものの、将校さん達の住む所は幾づもの並ぶ土蔵の中を仕切って造られだ狭い物ですた。
俺達四人もそごの一部屋を充てがわれだのっしゃ。
仮屋全体を取り巻いで板塀の囲いが設げられ、出入り口は一ヶ所のみですた。
そこに門番が二人付ぎ、守り(警固)は厳重そのものですた。
まるで牢屋に押す込められだが如ぐですた。
上陸するまでに、長崎(奉行所)と江戸(幕府)とでやり取りがあったど何度が耳にすますたが、俺達がその内容を知る由も無かんべ(無いのです)。
一つ知ったごどは、オロシヤが「天下様に商い致すたぐ」(「北辺探事」にこの記述)ど何度か申す入れだども、江戸からの下知は罷りならんとの返事だったと言うのっしゃ(です)。
あの信牌とやらは何だったんだべ(のでしょうか)。
オロシヤに散々お世話頂いだがら言うのではねゃ(ない)ども、俺でもお国の恥のような気もすんべ(するのです)。
異国の者で有ろうと難破すた船の水主のために部屋を用意す(し)た、家族的な対応をすた、当面の生活費を支給すた、帰国に当たって俺達の衣服さえも用意すて呉れだ、別れの記念にど一人一人に懐中時計も呉れだ、餞別のお金さえも持たせで呉れだあのオロシヤやオロシヤの王様の事を思うど、俺がお国のやるごどど言ったら腹立たすぐもあんべ(あるでしょう)
後に有った(長崎)御奉行所のお取り調べに、お役人様達の前では言えながったごどだー」。
左平も儀兵衛も頷いた。津太夫の話が続く。
「ナデジダ号の破損修理のごども何度が願い出で、やっとに認められだど聞きますた。
んだども(しかし)、将軍様への献上品は急遽少すばかり修繕されだお粗末な蔵に入れだ(収納された)まんまですた。
笑うに笑えないごどがありますたよ。軍船ん(の)中、何処にどの様に包まれで保管されでいたのが、横に一丈五尺(約四・五メートル)、長さ四間(約七・二メートル)、厚さ四寸五分(約十三・五センチ)、その縁周りは唐草模様の金で出来た彫り物の飾りがついた大鏡が献上品の一つだったべ。
デッケヤー(大きい)鏡ですた。それがあの梅ケ崎の蔵に入りかねで、造られたばかりの蔵の入り口を壊す(し)て鏡を横にすて中に納めだのっしゃ(です)。
船の上に据え置がれた大砲も、兵隊さん一人ひとりが持づ鉄砲も、大鏡等の献上品も、それらを見ればいがにオロシヤが日本よりも国力も勢いも有るがど、いども簡単に知れるごどだべ。
太十(郎)は俺達の中でも一番に長崎に着いだごどを喜び、早くに上陸を見で(望んで)居だー。
ん(それ)だがら、余りにも遅い御上の対応に苛立っていますた。
さんざんにお世話になったオロシヤの事を思ってもいだべ(思い出しもして居たでしょう)。レザノフ様達への対応が酷いど、怒りを口にすていますた。
やっと上陸を許されたに、これがら俺達の(長崎)御奉行所のお取り調べがある。信牌があるのに交易が許されないらすい、修理が終わり次第レザノフ様達は本国に帰るらすいと俺達でさえ段々と耳にすて、太十(郎)はふさぎ込んですまったー。
部屋がら一歩も出ないようになってすまったのっしゃ。
俺は兵隊さんの一人に聞いだ話っこがら、前に太十(郎)がある日に船の調理場から小刀を盗んで(己の)喉を突いた、血だらけになった、船の中は大騒ぎになったど話すますたが、後でこごに居る儀兵衛さんに窘められますた。
儀兵衛の語るを聞けば、それが正すいがど思うべ(思います)。
[付記]:舌足らずの小生の物書きに、友人から忠告が有りました。ここに、憲法改正の手続きの流れを掲載させていただきます。
1 国会 衆議院 総議員の3分の2の以上の賛成
参議院 総議員の3分の2の以上の賛成
それで、国会の意思として、「国会の発議による提案」となります。
2 国民投票
有権者の投票。過半数の賛成
過半数以下の賛成……廃案
3 憲法改正の成立
天皇が国民の名において公布
なお、法律案は、衆議院で一党単独で議員定数の3分の2を確保しているのですから、法案を提起して、衆議院で賛成、参議院で否決となっても、再度衆議院で賛成可決となれば、それで法案が成立するのです。
一党独裁が可能になるのです。
