二 珍客
「居たー、お父様―」
声の方を見れば、五三と小春が立っている。その後ろにお京と末吉までもが立っていた。
もう八つ半(午後三時)を過ぎたろうか。
「如何した?、何かあったか?」
思わず声を掛ければ、お京が言う。
「大旦那様、如何したは無いでしょう。
もう、七夜(一週間)もお家にお戻りになっていないのですよ。
お嬢様も、見えずとも(来なかった)六様(六次郎)も、先生の事を心配しているのです。
お父さんを恋しがる娘が来ても呉れたのに、如何したは無いでしょう。
「おもちゃ絵」が欲しいと、奥様のお許しを得て小春と書店を覗いて来たのだそうです。
その寄り道と聞きましたが、「おもちゃ絵」にかこつけた五三様の御心をこそ褒めるべきかと思いますよ。
(ここに)寄るのは奥様も御存知ないことに御座います」
吾を指すに、お京の言葉が大旦那様、先生、お父さんと変わった。五三の事もお嬢様、娘と変わった。否、六の事も妻の事も話に出した。それとなく今の家(家敷)の様子を思い出させる。
「お父様にも皆様にもと、草団子、焼き団子を買ってきました」
五三が言いながら、末吉の方を見た。紫の風呂敷に包まれた物を胸近くに掲げた末吉だ。
「何人がために用意した方が良いのか、分りませんでした。
でも、ここに居る皆様には十分に召し上がって頂くほどになりそうです」
五三の言うに、小春が付け足した。
「ここに来るにも、私がお持ちしますと言うに持たせてくれませんでした。
おもちゃ絵をこそ私に寄越して、お団子の包みはお店からずーっと五三様がお持ちでした。重かったでしょう。
今、お茶を淹れますので皆様お休みのお時間に・・・」
出しゃばって言い過ぎたと思ったか、途中で語るを止めた小春だ。
「丁度区切りも良かろう。休みの時としよう」
一同に声を掛けた。右仲が即座に頂きますと言えば、末吉が風呂敷の包みを解く。
漂流民三人の目は、思いもしていなかった珍客の方に在った。
「寒くは無いか?。有難かったぞ。
皆々が喜んでも呉れた」
「はい。お役に立てて良かったー」
「おまけに、お父様を連れ出したのですから言うこと無しですね」
小春の言うに、大きく首を縦に振りもした五三だ。その右手は吾の左手を離さない。
久しぶりに見る街並みだ。夕方ともあればせわしなく通り過ぎる人も居れば、昼の温かさを惜しむかのように、まだ談笑しながら歩を進める母子とている。
「見ておらぬが、気に入った物は見つかったのかの?」
「はい。大分に迷いもしました。
目移りして、どれもこれも買いたくもなりました」
「(五三の)選んだはどんな物かの?」
「はい。錦絵です。着せ替えに、髪の形に御座います」。
笑みを見せて、吾を見上げた。
「千代紙にも見る綺麗な色の衣装と、様々な髪結いで人形(娘をかたどった紙人形)を飾ることが出来ます。
それと、家の中に見ます諸道具の切り取りを買いました。
実に良く出来ています。
お父様も好きになりますよ」
最期の一言は兎も角、購入した実物を早く見たくもなった。
吾が家の小さな門が見えてきた。左の手は五三の手にずーっと温かい。
朝方の厳しい寒さは何時ものことだったが、今日は久しぶりの小春日和にあった。月の変りは春遠からじと思わせた。
六の手を引く妻(タホ)が、玄関口で笑顔で迎えた。
お茶を頼み、五三が手を引くままに座敷に上がった。吾の空いている手を六が握った。
五三の手先を見るに、さて、どんなものかと思いもする。
途中、錦絵の一つとも聞いても居たればその現物を見て驚きもした。町娘や柳腰の美人、人物絵でもなければ、今に人気を博する役者の絵でも無い。
これが、最近に急に流行りだしたと聞くおもちゃ絵か。感心する。
五三は暫らく、その使い方も有り様も一生懸命に説明する。手を出す六に、邪魔をしないでと言う。可愛らしい兄弟喧嘩だ。
「小春も何ぞ買いもしたか?」
「いえ、今日の所は何も買いませんでした。
本にも色々あるのですね。冷やかしで手にした読本に北斎辰政の名をみたときにはえっ、と思いました。
(音羽の)護国寺の観世音様御開帳に併せて、本堂の前庭で百二十畳もの大きな厚紙に達磨の半身絵を描いた。
構図の大胆さ、繊細さ、ち密なこと、それはそれは、感激したと何度も何度もお姉様 (お京)から聞いて居た名ですよ。なのに小さくもある読本の挿絵とは・・・。
決まって最期には、必ずもっともっと人気が出る絵師だ、北斎の絵を今に買えるだけ買っておきなさいと御忠告を頂いて居たのですよ。
俵屋宗理から北斎辰政と(名を)変えたともお聞きしていましたが、それが、読本の挿絵に名が有るでは御座いませんか。
驚きましたよ。お姉様は知っているのかしらと思いました。
いえ、お話出来ないことかと思いもしたのです」
「うむ。思わぬ物を目にしたか。だが、絵の良し悪しは大小にあらず。
其方が言わずも、お京は疾うに北斎が行動を逐一知っても居よう。
お京ほどに北斎を知らぬが、俵屋宗理、否、北斎と言う御仁の絵はお京の言う通り必ず今よりも評判を得よう。
絵を碌に知らぬ吾さえあの達磨絵を天井に目にして、この御仁は世に名を残したなと思いもしたのだ。
お京に感化されてばかりの事には無いぞ」
「側に来た手代に、どの様な本をお望みですかと聞かれました。
何も応えぬは恥ずかしくも御座いましたれば、
咄嗟に、この北斎とか言う方は何歳になるのですかとお聞きしました」
少しばかり笑みを作った小春だ。
「旦那様より二つ、三つ年下。そう違わない年齢なのですね」
「そうか、吾とてそれは初めて知る」
今頃、お京はクシャミでもしていようか。今日もまたお京と末吉は三人の、否、四人の夕食の容易に忙しかろう。
団子を口にしながらも時折五三を見ていた左平、儀兵衛だった。田舎に居る子を思いもしたか、儀兵衛がそっと目頭を押さえていた。
明日からは長崎が事の聞き取りに入ろう。
[付記]:家に籠って素人ながら小説を書いている自分が、選挙の事に付いて書くなんて初めての事です。両刃の剣で読んでくれる人が減るかも・・・。心配してくれる妻です。
でも、昨日のNHKの夕方のニュースを見ていたらまた書きたくなってきました。そこには、調査結果として年代層ごとの投票先予想が出ていました。
十代、二十代の若者層の支持率が、スパイ方を制定したばかりの党派、裏金問題の議員40数名を比例代表選に立候補させた党派に増えているとの放映でした。
本当にそれで良いのか、思わずテレビ画面に釘付けでした。
小生も、間もなくに天国からか地獄からかお迎えが来る年齢になりました。それだけに、今の若い世代に言わねば、伝えねばと思いもするのです。
小生も戦争を知らない期間に生を得ています。でも戦争の悲惨な事、無駄なこと、近代的なインフラ施設を皆破壊すること、人間の精神構造さえも破壊することを学習することは出来ます。
前回、戦争反対の立場からウクライナとガザ地区の今を思って下さいと書きましたが、若者よ。沖縄のひめゆりの塔とその関連施設、長崎の平和公園、広島の平和記念公園と関連資料、東京も文京区本郷にある、わだつみのこえ記念館、そして、茨城県の予科練平和記念館を是非に行ってみてください
いずれも小生が訪問した所を上げさせて貰いましたが、戦争の悲惨さを今に伝える場所は全国、外にも有ります。行って見ましょう。
知らず知らずに戦争に巻き込まれる。何時の世も、ただただ、平和に暮らしたいだけなのに、と後になって思う嘆きでしかありません。
一般国民誰もが政治に参加できるのは選挙のみです。この凡そ60年、小生も市町村議会選挙、県会議員選挙、国会議員選挙、多くの選挙に参加して来ました。だが、一票が生かされたと実感するものが一つも有りません。
でも、台湾有事の際に日本も参加せざるを得ないなどと語る党派に一票をと考える若者が増えているとの中間予報の放映に黙って居られなくなりました。 若者よ、立ち止まって清き一票を考えましょう。
裏金問題の有る候補者にそもそも国会議員の資格が有るのか、それもまた大問題でしょう。年金生活者の年間所得は殆どが300万円足らずです。なのに、500万円で線引きして、所得申告を問わない、税金を払はなくて良いなんて納得できますか。
ちなみに、小生は妻と年金を合算して辛うじて300万円になります。それでも、糖尿病を抱える妻の医療費と小生に懸かる医療費とを合算して還付金が出るのではと税申告に行く小生です。
昨年(2024年度)は3000円の還付金が有りました。どの様な理由であれ還付金がもらえたのは実に何年振りかでした。
年金生活者よ、清き一票を投じるにも一度立ち止まって考えましょう。