二 休日
今日のこの聞き取り(調査)で長崎が見えもしてきた。何とか約束の日までに聞き取りを終えることが出来そうに思う。
「今日はこれで終わりじゃ。明日は丸一日、休みにしよう。
正月も二日から一日とて休むことも無く応えておったれば、疲れもしたろう。
聞く吾等も疲れもした。
前にも言ったかの?、其方らに教えて貰いもしたことをその夜に四人で摺合わせ、話し合い書き留める、纏める。
翌日に聞きたいことを確認する。絵図にしたい物を確かめる。
それが事に昼(昼間)同様に夜も時を要しての、時の要ることよ」
「へえ、時折、皆様の伸びたままの月代を見ても居ますれば、
俺達の聞き取り(調査)も大変な事だと思いもすて御座ますた」
「睦月(一月)も明日に終わりじゃが、残り一日とて正月は正月じゃ。
ここからは愛宕神社も近いでの。何ぞ願をかけてくるも良い。
(社の)側に在る店や出ても居る店を覗くも良かろう。
また、離れてはいるが増上寺も近ければそちらに廻るのも良かろう。
どちらに行っても人混みに驚きもしよう。
だがの、江戸に居って江戸の賑わいを堪能して来なかった、
江戸の街並みを見ても来なかったとあれば田舎に帰って話も出来ぬであろう」
「ご配慮、有難う御座ます。
俺は年齢も行けば、米沢屋(石巻の廻船問屋)に長ぐ務めでも居だれば江戸を多く経験すても御座ます。
幾づがの神社も見だす、評判にもなった千社札なる物も見ますた。
江戸の街並みもあっつごづ(あちこち)見もすて御座ます。
されど儀兵衛さんは、あん(の)時が全く初めでの船でも江戸上りでも御座ますた。
普段は大福帳宜すぐ、米沢屋の事務方に有りますたがん(ら)ね。
お言葉に甘えで明日は三人で愛宕社も増上寺も、いやー(いえ)、浅草(寺)にも足を伸ばすて見んべ(見ましよう)」
「俺とて三度目の船、江戸上りですた。二度は浅草ばかり行きもすますた。
愛宕(社)も増上寺も初めでになんべ(ります)。
お言葉に甘えで行って見ん(る)べ。楽すみだー」
左平の言葉に、併せて儀兵衛もまたニコリとした。
「三人は今日に出かけても居ようかの?
昌永も右仲も二日ぶりの帰宅とあって、今頃は家族団欒に努めても居よう。
其方も今日は来ずとも良かったに・・・」
「はい。お心遣い、有難う御座います。
なれど吾はこの屋敷(長屋)に独り住まい。
仙台に帰れば妻子が待って居ようにも、この屋に在っては今が調べを整理再確認する外に時間の潰しようが御座いません。
仰せ付かりし役なれど、仙台に早くに帰りたくも思いますればこの仕事一日も早くに終えたくも存じます。
大槻様こそ、四半時(約三十分)も歩けばご自宅にお戻り出来ますに・・・。
帰りもせずこの屋に詰めてもう六日にもなりましょう。
(大槻様の)お身体の事もご家族様の事も心配にもなりますれば、
一度ご自宅にお帰りになっては如何でしょうか?」
「何、末吉もお京も毎日通って来て居るでの。
家族の事も家の事も仔細を聞いておりもすれば心配は要らぬ。
皆、流行り風邪も引かず元気に暮らしおると、お京の話じゃ。
昨夜寝る前に今日は天文方に行って見ようかと思いしも、教えを頂くことどもを整理しかねての、間殿に改めて日を重ねて聞かねばならないとつくづく分りもした。
特にカナスダの港を出てからの海洋、赤道、島や大陸の位置、その気候風土に、津太夫等に聞きし日月の是非等を教えて貰わねばならぬ。
彼等三人、否四人を仙台に送り出してから、改めて教え頂くことにする。
今日の事(作業)とて、走り書きに書き留めあるものを先ずは整理して、それからに其方と摺合わせもしようと、せずばならぬ事ばかりじゃ。
八つ半(午後三時)頃からにも吾に付き合って呉れるかの。
整理したことどもについて摺合わせをしたい、意見をお聞かせ頂きたいと思いもするが・・・、折角の休みを・・」
「はい。吾は吾とて整理せねばなりませぬが、大槻様のお望みどおりに致します。
さすれば、この席を離れて居ても、大槻様の良いところ(時刻)でお声をお掛け下され」
明日から如月とあれば、カナスダの港を出帆しての凡そこの一年一ケ月に渡る話に区切りを付けねばなるまい。
さすれば、豆まきが頃(節分)には何とか聞き終えようとの当初の腹積もりに及ばずとも、(如月の)半までにはすべての聞き取りを終えそうに思える。
それが彼等との約束を守ることにもなる。
[付記]:明日30日。金曜日からは第二十七章 長崎 になります。引き続きお読み下さるよう、宜しくお願い致します